「内縁のパートナーの遺産を相続したい」とお悩みでしょうか?
残念ながら、内縁の配偶者に法律上の相続権は認められていません。
とはいえ、生前贈与、遺言、生命保険、特別縁故者といった方法で財産を引き継ぐことは可能です。
この記事では、
●そもそも内縁とは?
●内縁の妻・夫の相続権
●内縁の妻・夫が財産を引き継ぐ方法
などについて解説しています。
「大切なパートナーの遺産を引き継ぎたい」とお考えの方に役に立つ内容となっていますので、ぜひ最後までお読みください。
目次
まずは、そもそも内縁とは何か、法律上はどう扱われるかなど、内縁に関する基礎知識をご紹介します。
内縁とは、婚姻届を提出していないだけで事実上は夫婦といえる関係です。
「姓を変更したくない」などの理由で婚姻届は提出していないものの、社会的には夫婦同然と認められています。「事実婚」とほぼ同じ意味で、不倫関係を指すことが多い「愛人」とは大きく異なります。
内縁といえるかを明確に判断する基準はありません。以下の事情を総合的に考慮して判断します。
●長期間同居しているか
●家計(財布)が同一か
●住民票上の世帯が同一か
●結婚式を挙げているか
●認知した子どもがいるか
●周囲から夫婦として扱われているか
「○年同居したら内縁」などの絶対的な基準はなく、上記のすべての条件を満たす必要もありません。
内縁は夫婦同然の関係であるため、法律上も婚姻届を提出した夫婦と同じ扱いを受ける点が数多くあります。
たとえば以下の権利・義務がある点は夫婦と同様です。
●同居・協力・扶助義務(民法752条)
●婚姻費用の分担(民法760条)
●日常家事に関する債務の連帯責任(民法761条)
●貞操義務
反対に、夫婦同姓を定める民法750条など、適用されない条項もあります。
では、内縁の妻・夫に相続権は認められているのでしょうか?
条文・判例で相続できないとされている
結論からいうと、内縁の配偶者に相続権は認められていません。
法律上、相続人になれるのは以下の人に限られます。
●配偶者(夫や妻)
●子(既に死亡していれば孫)
●直系尊属(両親。既に死亡していれば祖父母)
●兄弟姉妹(死亡していれば甥・姪)
相続人になれる「配偶者」とは、婚姻届を提出した場合だけを指し、内縁の妻・夫は含まれません。
判例においても「財産分与に関する民法768条の規定を類推適用することはできない」とされ、内縁の配偶者に相続権は認められませんでした(最決平成12年3月10日)。
残念ながら、内縁の妻・夫は条文・判例上、相続権がないとされているのが実情です。
故人の生前に事業や介護などで特別な貢献をした人に報いる制度として、「寄与分」や「特別寄与料」があります。
しかし「寄与分」は「相続人」に限って認められる制度です。また、「特別寄与料」は相続人以外の「親族」にしか認められません。
前述の通り、内縁の妻・夫は「相続人」には含まれず、法律上の「親族」にも該当しません。したがって、寄与分や特別寄与料の制度によっても財産を得られないこととなっています。
内縁関係では直接の相続は受けられませんが、以下の権利は認められています。
内縁の配偶者が借りていた家に住み続けることは可能です。
亡くなったパートナーに法律上の相続人がいない場合には、住んでいた家の賃借権を引き継げます(借地借家法36条)。
法律上の相続人がいた場合においても、判例では「家屋賃借人の内縁の妻は、賃借人が死亡した場合には、相続人の賃借権を援用して賃貸人に対し当該家屋に居住する権利を主張することができる」とされました(最判昭和42年2月21日)。
賃借権そのものは相続できなくても、内縁のパートナーが借りていた家に死後も住み続けることはできます。
内縁の配偶者には、遺族年金の受給資格も認められています。遺族年金は残された家族の生活を保障するためのものであり、事実婚であっても受け取りが可能です(厚生年金保険法3条2項)。
実際に受け取るためには、生計維持関係の証明が必要です。
内縁の妻・夫には相続権は認められませんが、子どもには認められる可能性があります。
具体的には、
●ふたりの間に生まれた子を父が認知した
●連れ子との間で養子縁組をした
といったケースでは、子は相続権を得ます。
なお、かつては、法律婚をしていない男女間に生まれた子の相続分について「法律婚をした男女間の子の半分」とする規定が存在していました(旧民法900条4号ただし書)。しかし判例変更(最大決平成25年9月4日)を受けて条文も改正されました。現在は法律婚の有無に関係なく、子の相続分は同一とされています。
内縁の妻・夫に相続権は認められていませんが、遺産を引き継ぐ方法はいくつかあります。内縁のパートナーに財産を引き継ぐ方法と注意点を解説します。
まずは、生前に贈与してあらかじめ財産を移しておく方法が考えられます。生前贈与は誰に対してもできるため、内縁のパートナーに財産を渡すことが可能です。
もっとも、高額な贈与をすると贈与税がかかります。贈与税が非課税となるのは年間110万円までです。税金を最小限に抑えながら多額の財産を渡すためには、長期的な計画を立てて行わなければなりません。
なお、贈与の際には、法律上の意味が明確になるように贈与契約書を作成しておくのがおすすめです。
生前贈与の金額が大きくなる場合には、相続人から「遺留分侵害額請求」をされるリスクもあります。遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に最低限保障されている遺産の取り分です。
遺留分を侵害するほどの金額を贈与すると、死後に「遺留分侵害額請求」をされて一定割合を支払わなければならない可能性があります。生前贈与が相続人の遺留分を侵害していないかに注意しましょう。
遺留分について詳しくは以下の記事を参照してください。
遺留分の計算方法|具体例や請求方法もわかりやすく解説
次に、遺言書を書いて遺贈する方法があります。遺言では、基本的に自由に遺産の配分を決められるため、内縁のパートナーに財産を渡せます。
遺言書を作成する際には、自分で「自筆証書遺言」を書いて自宅で保管しても構いません。ただし、改ざんのおそれがある、形式に間違いがあると無効になるといったリスクもあります。
形式や内容に誤りがないようにするためには、公証役場で「公正証書遺言」にしておくのが最も確実です。
遺言書により財産を譲渡した場合でも、遺産の総額が基礎控除の金額を超えると相続税がかかります。基礎控除額は「3000万円+600万円×法定相続人の人数」です。この「法定相続人」に内縁の配偶者は含まれません。
また、内縁だと「配偶者控除」が使えないなど、相続税の優遇措置が十分に活用できません。相続税の金額も2割増しとなります。
結果として、内縁の配偶者に遺贈した場合には、法律婚をした配偶者に比べて相続税が多くなる可能性があります。
兄弟姉妹以外の法定相続人がいるのであれば、生前贈与と同様に遺留分を侵害しないかに注意が必要です。「内縁の妻に全財産を譲る」といった遺言は、相続人の遺留分を侵害してしまいます。
後にトラブルが生じないようにするには、相続人の遺留分に配慮した遺言書を作成するのもひとつの方法です。
内縁の配偶者を生命保険の受取人に指定する方法もあります。生命保険は受取人固有の財産になるため、相続人の遺留分との兼ね合いを気にしなくていいメリットがあります。
基本的には、生命保険の受取人になれるのは配偶者、子、親、兄弟姉妹などの親族に限られているケースが多いです。
ただし、
●法律上の配偶者がいない
●同居期間が長い
●生計を共にしている
などの条件を満たせば、内縁の配偶者でも受取人になれる可能性があります。
内縁の妻・夫が受取人になれるかを保険会社に確認し、必要な資料を提出してください。
内縁の配偶者が受け取った生命保険金には、相続税が課せられます。
生命保険金は「500万円×法定相続人の人数」という非課税枠がありますが、受取人が内縁の配偶者の場合には適用されません。したがって、保険金全額が相続税の課税対象になってしまいます。
死後に取り得る手段としては、「特別縁故者」として請求する方法があります。
特別縁故者とは、生計を共にしていたなど、故人と特別な関係があった人に遺産を分け与える制度です(民法958条の3)。内縁の配偶者は、特別縁故者と認められる典型的な例といえます。
特別縁故者の大きなデメリットは、相続人がいないケースでしか遺産を受け取れない点です。故人に子どもや兄弟姉妹がいれば、その相続人がいくら疎遠であったとしても、内縁の妻・夫は特別縁故者として財産の分与を請求することはできません。
特別縁故者は、限られた場面でしか活用できない制度といえます。
相続人がおらず、特別縁故者として財産を受け取れるケースであっても、実際に手元に入るまでの手続きは面倒です。
特別縁故者が財産の分与を受けるまでは、大まかに以下の流れになります。
1.相続財産管理人の選任を申立てる
2.債権者・受遺者に遺産から支払いがなされる
3.相続人の不存在が確認される
4.特別縁故者に対する財産分与を請求する
5.裁判所の審判が出る
内縁の配偶者は、裁判所に対して、
●相続財産管理人の選任申立て
●特別縁故者に対する財産分与請求
をしなければなりません。
手続きに慣れていない方にとっては大きな負担になり、期間も長く要してしまいます。
他の方法と同様に、特別縁故者として遺産を引き継いだ場合には相続税が高額になりやすいです。
具体的には、
●基礎控除の額が少なくなる
●各種控除が利用できない
●税額が2割増しになる
といった点で、不利に扱われています。
特別縁故者について詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてください。
特別縁故者の要件や手続き|献身的に介護した人が相続するには?
ここまで、内縁の配偶者の相続について解説してきました。
内縁の妻・夫に相続権はありません。婚姻届を出せば相続できますが、提出できない事情がおありの方もいらっしゃるでしょう。その場合、生前贈与、遺言、生命保険などで準備することが可能です。
内縁の配偶者の遺産を引き継ぎたいとお考えの方は、ぜひ弁護士までご相談ください。弁護士は、取り得る方法のご提案、遺言書の作成などをサポートいたします。税金や遺留分にも配慮した遺産の引き継ぎが可能になります。
「パートナーの遺産を引き継ぎたい」「他の相続人とトラブルにならないか心配」などとお悩みの方は、お気軽に弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。
弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士
野俣 智裕
■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
■東京弁護士会信託法部
信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。
東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。