債務は信託財産にできる?ローン付き不動産を信託する方法を解説

信託

「ローンが付いた不動産は信託できるのか」とお悩みでしょうか?
信託財産にできるのは、プラスの財産に限られます。債務(マイナスの財産)そのものは信託財産にはできません。
もっとも、委託者から受託者へと債務引受をすれば、ローン付き不動産も信託の対象にできます。金融機関への確認が必要であるなど注意すべき点はありますが、問題がなければ信託の活用を検討するとよいでしょう。
この記事では、
●債務は信託財産にできるか?
●債務を信託する方法
●債務を信託する際の注意点
などについて解説しています。
ローン付き不動産を信託したいとお考えの方にとって参考になる内容となっていますので、ぜひ最後までお読みください。

債務は信託財産にできる?


ローンは借金であり、法律上は債務と呼ばれます。
債務(マイナスの財産)は信託財産にできません。信託財産にできるのは積極財産(プラスの財産)だけであるためです。金銭、不動産、株式など多くの積極財産は信託の対象にできるのに対して、債務そのものは信託財産にはできません。

信託できる財産とできない財産について詳しく知りたい方は、以下の記事を参照してください。
参考記事:信託できる財産・できない財産|できないときの対処法も解説

債務引受をすれば信託できる


「債務は信託できない」と聞いて、「ローン付き不動産は信託できないのか」と諦めてしまうかもしれません。そうであれば、自宅にせよ収益用物件にせよ多くのケースでローンが付いているため、不動産の信託は難しくなってしまいます。
実際には、ローン付き不動産の信託は可能です。ただし、不動産の名義が委託者から受託者へと変更されるため、ローンを組んでいる金融機関の承諾を得なければなりません。勝手に行うと契約違反となり、一括返済を求められる可能性もあります。
金融機関の承諾の際に必要とされる場合が多いのが「債務引受」です。

債務引受とは?

債務引受とは、契約を結んで債務を移転させることをいいます。簡単にいえば借金の肩代わりです。信託の場面では、委託者から受託者へと債務を移転させます。
前提として、ローン付き不動産を信託したからといって、ローン(債務)まで自動的に受託者に移転するわけではありません。何もしないとローンの債務者は委託者のままです。
にもかかわらず、従来ローン返済用の口座として使用していた委託者名義の預金口座に十分な預金が確保されず、信託財産として金銭が受託者名義の信託口口座に移されていたり、口座が解約されていたりすると、ローンが不払いになる可能性があります。金融機関としては、回収できないリスクを抱えるのは望ましくないです。
債務引受により受託者がローンを肩代わりすれば、返済が滞った際に受託者名義の財産から回収できるようになります。金融機関としても信託を受け入れやすいでしょう。

債務引受の種類


債務引受には「併存的債務引受(重畳的債務引受)」と「免責的債務引受」があります。それぞれの特徴を解説します。

併存的債務引受(重畳的債務引受)

併存的債務引受(重畳的債務引受)とは、元の債務者にも債務が残るものです(民法470条1項)。信託の場合だと、併存的債務引受の結果、委託者と受託者の双方が連帯して債務を負担します。
債権者(金融機関)、委託者、受託者の三者で契約すれば、もちろん併存的債務引受ができます。他にも、併存的債務引受そのものは「債権者と受託者の契約」や「委託者と受託者の契約+債権者の承諾」でも可能です(民法470条2項、3項)。
併存的債務引受であれば、委託者と受託者が連帯債務者となるため、金融機関はいずれからでも回収できます。委託者が債務者として残るため、認知症になった際に同意ができず、借り換えができなくなるリスクがある点には注意してください。

免責的債務引受

免責的債務引受とは、元の債務者は返済義務を免れ、引受人だけの債務になるものです(民法472条1項)。信託であれば、委託者の債務はなくなり、受託者だけが返済義務を負います。
免責的債務引受も、債権者、委託者、受託者の三者で契約すれば当然にできます。他には「債権者と受託者の契約+債権者から委託者への通知」や「委託者と受託者の契約+債権者の承諾」でも可能です(民法472条2項、3項)。
免責的債務引受をすれば、委託者は債務者ではなくなるため、認知症になった際のリスクは避けられます。もっとも、委託者が死亡して相続が発生した際に、債務控除が受けられない可能性があります。

引き受けた債務を「信託財産責任負担債務」にする

債務引受をしただけでは、単に受託者が負担する債務になってしまいます。金融機関が信託財産から回収できるようにするには、信託の中で「信託財産責任負担債務」にしなければなりません。
具体的には、信託契約において「受託者が引き受けたローン債務を信託財産責任負担債務にする」旨の定めを置く必要があります。
信託財産責任負担債務とは、受託者が信託財産をもって返済する責任を負う債務です(信託法2条9号)。信託財産責任負担債務になれば、ローンの支払いが滞ったときに、金融機関が信託財産からお金を回収できるようになります。
なお、信託財産だけでなく、別に受託者自身が有している財産も責任財産になります。支払いが滞れば、信託財産ではない受託者自身の財産から金銭を回収される可能性もあるので注意してください。

債務引受以外の方法

債務引受をしなくても、金融機関が認めればローンの債務者が委託者のままで不動産の信託をすることは可能です。委託者の債務のままであれば、相続の際に債務控除を確実に適用できる点がメリットです。
もっとも、認知症になって判断能力がなくなるとローンの見直しができなくなるリスクがあります。
なお、債務引受による方法も含めて、そもそも金融機関がローン付き不動産の信託を認めてくれない場合には、他の金融機関への借り換えを検討せざるを得ません。

ローン付き不動産を信託するメリット


ローンについて受託者が債務引受をしたうえで信託財産責任負担債務にすれば、ローン付き不動産を信託財産にできます。ローン付き不動産を信託すると、次のメリットがあります。

高齢の親に代わって管理できる

不動産を信託すれば、管理を受託者に任せられます。
たとえば、親が収益用不動産を有していたものの、高齢で管理を続けるのが難しいケースはよくあるでしょう。子を受託者として不動産を信託すれば、管理を任せつつ収益は親のために活用することも可能です。

認知症になっても管理・売却ができる

親が認知症になって法的判断能力を失うと、不動産の管理や大規模修繕などができなくなってしまいます。介護施設入所のためにお金が必要であっても、売却はできません。
あらかじめ自宅や収益用不動産を信託して、子である受託者に権限を付与しておけば、親が認知症になった後も管理や処分が可能です。権限の内容は、必要に応じて柔軟に定められます。さらに、免責的債務引受をしていれば借り換えもスムーズにできます。

民事信託による認知症対策について詳しく知りたい方は、以下の記事をお読みください。
参考記事:民事信託(家族信託)による認知症対策|メリットや注意点を解説

ローン付き不動産を信託する事例


ローン付き不動産を信託する事例として、次のケースで考えます。

●関係者:父A(80歳)、長男B(50歳)
●Aの妻は既に亡くなっている。
●Aは収益用不動産を有しており、賃料を生活資金にしてきた。収益用不動産を建設するときに組んだローンが残っており、金融機関の抵当権がついている。
●Aは高齢のため、Bに不動産の管理を引き継ぎたいと考えている。

このケースで信託をする場合には、以下のスキームが考えられます。

●委託者 :父A
●受託者 :長男B
●受益者 :父A

委託者となる父Aが、受益者も兼ねる形になります。設定時に贈与税を課税されないために、民事信託では設定当初は「委託者=受益者」とするケースが多いです。
不動産にローンが残っているため、金融機関の希望によりAからBへの債務引受が必要になると考えられます。金融機関と話し合ったうえで、併存的債務引受あるいは免責的債務引受により、受託者となるBにローンの債務を引き継ぎます。
そのうえで、信託契約書において債務を「信託財産責任負担債務」とする定めを置かなければなりません。
不動産を信託の対象にすれば、受託者となった長男Bは、契約の定めに応じてAのために不動産を管理・処分できます。賃料はAの生活費として使えるため、Aの今後の生活も安心です。Aが認知症になったとしても、Bは引き続き不動産の管理を行えます。

債務を信託する際の注意点


ローン付き不動産は信託できますが、以下の点には注意してください。

金融機関の同意が必要

信託する際には、融資を受けている金融機関の同意を得るようにしてください。
ローン付き不動産を勝手に信託して名義変更をすると、金融機関との契約に違反してしまいます。発覚すれば、一括返済を要求される可能性も否定できません。
金融機関の意向によって、ローン付き不動産を信託できるかが左右されます。債務引受をするにしても、金融機関の承諾が必要です。信託に慣れていない相手であれば、説得するのに苦労するケースもあるでしょう。
いずれにせよ、ローン付き不動産の信託を考えているときには、必ず金融機関に相談してください。

受託者自身の財産も責任財産になる

ローン付き不動産を信託する際には、ローンについて債務引受をしたうえで、信託契約で「信託財産責任負担債務」として定めます。これによって、不払い時に金融機関が信託財産から回収できるようになります。
もっとも、責任財産になるのは信託財産だけではありません。受託者自身が有している固有の財産も責任財産です。したがって、返済が滞った際には最終的に受託者自身の財産も強制執行の対象になり得ます。
「自分の財産は関係ないと思っていた」と後悔してからでは遅いです。債務の信託に伴って、受託者自身の財産も責任財産になると知っておきましょう。

損益通算できない

信託財産に含まれる収益用不動産で損失が生じた場合でも、損益通算はできません。
損益通算は、利益から損失を差し引いて、課税対象額を減らせる制度です。
しかし、信託財産となった不動産から生じた損失は、信託外の収益用不動産から生じた利益とは損益通算ができないとされています(租税特別措置法41条の4の2第1項)。信託外の収益用不動産から生じた利益にはそのまま課税されてしまい、税額の圧縮ができません。
信託する不動産から損失が出そうな場合には注意が必要です。

債務控除できないおそれ

債務を信託した場合には、委託者の死亡の際に債務控除ができないおそれがあります。
債務控除とは、相続財産に債務があったときに、遺産総額から差し引ける制度です。債務の分だけ遺産総額が少なくなるため、相続税が減額されます。
信託に際して免責的債務引受をしていると、委託者は債務者ではなくなるため、債務控除をできるかの問題が生じます。
この場合には、債務控除が出来るように条項を工夫する必要がありますので、専門家に相談するのが良いでしょう。

制度の歴史が浅い

民事信託は制度ができてからの歴史が浅いため、詳しい専門家が不足しており、金融機関も十分に対応出来ていない面があります。加えて、税制面などルールが不明確な点も多いです。
自力で進めようとしたり、専門家であっても信託をあまり扱っていない人に依頼したりすると、思わぬ落とし穴にはまるおそれがあります。利用する際には、信託に精通した専門家を探して依頼するようにしましょう。

債務を信託したい方は弁護士にご相談を


ここまで、債務の信託に関して、ローン付き不動産を信託する方法を中心に解説してきました。
債務そのものは信託財産にできません。債務引受をしたうえで、信託契約で「信託財産責任負担債務」と定めれば、ローン付きの不動産を信託の対象にできます。自宅や収益用物件にローンが残っていても、信託の利用を検討してみましょう。

ローン付き不動産の管理などにお悩みの方は、弁護士法人ダーウィン法律事務所までご相談ください。
民事信託は制度の歴史が浅いため、弁護士であっても詳しいとは限りません。当事務所は民事信託に力を入れており、豊富な経験を有しています。現在の状況や希望をお聞きしたうえで、法的リスクを回避しつつ実現できる方法をオーダーメイドでご提案いたします。
「ローン付きの不動産を信託したい」とお考えの方は、お気軽に弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。

この記事を書いた弁護士

野俣智裕
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

  • 野俣 智裕

  • ■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
    ■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
    ■東京弁護士会信託法部

  • 信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。

  • 東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。

  • 所属弁護士・事務所詳細はこちら

  • 電話相談・オンライン相談・来所相談 弁護士への初回相談は無料

    相続・信託に特化したサービスで、相続・信託に関するお悩み問題を解決いたします。ぜひお気軽にご相談ください。
    ※最初の30分まで無料。以後30分ごとに追加費用がかかります。
    ※電話受付時間外のお問合せは、メールフォームからお問合せください。
    お電話受付:9時〜21時(土日祝も受付)
    0120-061-057