相続財産管理人とは?選任すべきケースや手続きを弁護士が解説

相続

亡くなった方に相続人がいないと「相続財産管理人」が必要なケースがあります。
故人にお金を貸していた方、生前面倒を見ていた方、相続放棄をした方などは、裁判所に相続財産管理人の選任申立てをすべきかもしれません。
この記事では、
●相続財産管理人とは
●相続財産管理人を選任すべきケース
●相続財産管理人の選任手続き
などについて解説しています。
故人に相続人がいないケースで関係者が知っておくべき内容となっていますので、ぜひ最後までお読みください。

相続財産管理人とは?


「相続財産管理人」という言葉を聞き慣れない方も多いのではないでしょうか?
まずは、相続財産管理人について役割や必要なケースなどの基礎知識を解説します。

相続する人がいない遺産を管理・清算する

相続財産管理人とは、引き継ぐ人がいない遺産について、管理・清算をする役割を担う人です。
亡くなった方の財産を引き継ぐ人がいない場合、誰かが勝手に処分することはできません。
そのため、次のような問題が生じます。
●自宅が空き家になって荒廃し、周辺住民に迷惑をかける
●お金を貸していた人が返済を受けられない
●財産を有効に活用できない
これらの問題を解決するためには、相続財産管理人が必要です。
相続財産管理人は、
●空き家を管理する
●遺産を現金に換えて負債の返済にあてる
●残った財産を国庫に帰属させる
といった役割を担います。

必要なケース

相続財産管理人は、遺産を相続する人がいないケースで必要になります。
具体的には、以下の2つのパターンです。

そもそも相続人になれる人がいない

まずは、そもそも法律上相続人になれる親族がいない方が亡くなったケースです。
法律上、相続人になれるのは以下の人に限られます。
●配偶者(夫や妻)
●子(既に死亡していれば孫、孫も死亡していればひ孫)
●直系尊属(両親。既に死亡していれば祖父母、祖父母も死亡していれば曾祖父母)
●兄弟姉妹(死亡していれば甥・姪)
これらの親族がいない人の遺産を管理・清算するには、相続財産管理人をつけなければなりません。

相続人全員が相続放棄をした

法律上は相続人になれる親族がいたとしても、全員が相続放棄した場合には相続財産管理人が必要になります。
相続放棄とは、プラス・マイナス問わずすべての財産を相続しないことです。故人に借金が多いケースや、遠隔地の不動産を引き継ぐのが面倒なケースなどで利用されます。
相続人全員が相続放棄をすれば、遺産を引き継ぐ人がいなくなるため、もともと相続人がいないケースと同様の事態が生じます。相続放棄をした人に子(故人から見て孫、甥・姪)がいたとしても、子には相続権は引き継がれません。
したがって、相続人全員が相続放棄をすれば、借金返済などのためには相続財産管理人をつける必要があります。

なお、紹介した2つのパターンに該当して相続する人がいなくても、故人が遺言書で指定するなどして遺言執行者が選ばれていれば、相続財産管理人は不要です。
遺言執行者については以下の記事を参照してください。
遺言書を実現する遺言執行者の役割|必要なケースや業務の流れを解説

選任される人

相続財産管理人をつけたい場合には、関係者が裁判所に申立てをします。
申立てを受けた裁判所は、相続財産を管理するのに適した人を選任します。
相続財産管理人に特別な資格は要求されませんが、実際は弁護士などの専門家が選任されるケースが多いです。候補者を示して申立てがなされるケースもありますが、候補者が選ばれるとは限りません。

相続財産管理人を選任するメリット


相続財産管理人がいないとできないことを実現したい場合には、選任の申立てが必要です。
ただし、申立ては義務ではありません。相続人がいなくても、遺産が少ないなど、わざわざ相続財産管理人をつけなくてもよいケースもあります。
以下のケースでは、相続財産管理人をつけるメリットが大きいです。あてはまる方は申立てを検討するとよいでしょう。

債権者が遺産から回収できる

故人に対して金銭などを請求できる権利を持っていた債権者は、相続財産管理人を選任してもらうメリットがあります。たとえ故人に対して権利を有していたとしても、遺産から勝手に回収することはできないため、相続財産管理人をつけなければなりません。
たとえば
●故人にお金を貸していた人
●支払われていない家賃を請求したい大家
などは、相続財産管理人の選任を申立てましょう。

特別縁故者が財産を受け取れる

故人の特別縁故者に該当する人にとっては、相続財産管理人が選任されるメリットが非常に大きいです。
特別縁故者とは、生計をともにしていたなど、故人と特別の関係があった人です(民法958条の3)。
たとえば、
●内縁の配偶者
●事実上の養子
●介護など身の回りの世話をしていた人
●相続人ではないが関係の深い親族
などが特別縁故者に該当する可能性があります。
相続人がいない場合には、特別縁故者が故人の遺産の全部または一部を受け取れます。ただし、相続財産管理人が選任された後に請求をしなければなりません。
特別縁故者が財産を受け取るには、相続財産管理人の存在が必須です。該当する方は相続財産管理人の選任申立てをすべきといえます。

相続放棄した相続人が管理義務から解放される

相続放棄をした相続人にも、相続財産管理人を選んでもらうメリットがあります。
相続放棄をすると、遺産を相続する必要はなくなるものの、一切責任を負わないわけではありません。法律上、相続放棄をした後にも財産の管理を継続しなければならないためです(民法940条1項)。
たとえば、空き家になった故人の自宅について、倒壊や火災などによって周囲に被害が生じないように管理が必要です。しかし、遠隔地に住んでいるなど管理を続けるのが難しいケースも多いでしょう。
相続財産管理人をつければ、管理義務は消滅します。「相続放棄したから関係ない」とお考えの方も、管理の手間から解放されるために、相続財産管理人の選任をご検討ください。

相続財産管理人の選任手続き


相続財産管理人をつけるべきケースでは、裁判所へ選任を申立てなければなりません。
申立てにあたって知っておくべきことをまとめました。

申立てができる人

法律上、相続財産管理人の選任申立てができるのは「利害関係人」と「検察官」です。

民法952条1項
(相続財産の管理人の選任)
第九百五十二条 前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の管理人を選任しなければならない。

「利害関係人」には
●債権者
●特別縁故者
●受贈者(遺言により財産を受け取る人)
●相続放棄をした相続人
などが該当します。
検察官が申立人となっているのは、国が相続財産管理人を必要とするケースを想定しているためです。実際には、ほとんどのケースで「利害関係人」が選任を申立てます。

申立て先

申立て先は、故人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。管轄は裁判所のサイトから確認できます。
亡くなった方が東京23区に住んでいた場合には、東京家庭裁判所(本庁)になります。申立人の居住地に関係なく、故人が住んでいた場所で申立てを行う点に注意してください。

必要書類

一般的な必要書類は以下の通りです。
●申立書(書式・記載例は裁判所のサイトをご参照ください)
●故人の生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本
●故人の父母の生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本
●故人の直系尊属の死亡の記載がある戸籍謄本
●(故人の子で死亡している人がいるとき)故人の子が生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本
●(故人の兄弟姉妹で死亡している人がいるとき)故人の兄弟姉妹が生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本
●故人の住民除票または戸籍附票
●財産を証明する資料(不動産登記事項証明書、預貯金の残高証明書など)
●利害関係を証明する資料(戸籍謄本、金銭貸し付けの契約書など)
●( 財産管理人の候補者がいるとき)候補者の住民票または戸籍附票
相続人がいないことや利害関係があることを示すのが、提出する主な目的です。個々の事情や管轄の裁判所によって、必要書類が異なる可能性があります。事前に申立て先の裁判所に確認しておきましょう。

費用

申立てには以下の費用がかかります。
●収入印紙800円分
●連絡用郵便切手(必要な種類、枚数は裁判所により異なる。東京家裁の場合、100円2枚、84円8枚、10円10枚、2円10枚の計992円分)
●官報公告料4230円
相続財産だけでは財産管理にかかる費用や相続財産管理人への報酬をまかなえないと考えられる場合には、上記以外に予納金を納める可能性もあります。100万円程度必要になるケースもあるため、事前に裁判所に確認してください。なお、使用しなかった予納金は後に返還されます。

相続財産管理人の職務


申立てがなされると、裁判所が適任者を選任し公告します(民法952条2項)。
選任された後は、以下の流れで相続財産管理人が職務を進めます。

相続財産の調査・管理・換価

相続財産管理人は遺産を調査して内容を把握したうえで、管理・保存を行います。
必要に応じて、裁判所の許可を得て不動産などを処分し、金銭に換えることも可能です。
具体的には、
●建物の修繕
●債権の取立て
●預貯金の解約・払戻し
●不動産の譲渡
●株式の売却
●永代供養費の支出
などを行います。

債権者・受遺者への支払い

相続財産管理人が選任されてから2ヶ月が経過しても相続人が現れなかったことが確認されると、債権者や受遺者が支払いを請求するように公告がなされます(民法957条)。
故人に債権を有している人や遺言により贈与を受けた人は、定められた期間内に申し出なければなりません。
相続財産管理人は、申し出をした債権者に対して遺産の範囲内で弁済をします。遺産が弁済に足りなければ、権利の金額に応じて按分して支払います。債権者に弁済した後に残った遺産があれば、受贈者へと分配されます。

相続人がいないことの確認

債権者・受遺者に対する公告の期間が満了した段階でも相続人が見つからなければ、改めて相続人がいれば申し出るように公告がなされます(民法958条)。
この公告は6ヶ月以上の期間を定めてなされ、期間内に相続人が名乗り出なければ相続人がいないことが確定します。
事前に相続人の不在を確認したうえで相続財産管理人が選任されている以上、この段階で相続人が現れることはほぼないでしょう。

特別縁故者への財産分与

特別縁故者へ財産を分けるのも、相続財産管理人の役割です。
財産の受け取りを求める特別縁故者は、相続人がいないことが確定してから3ヶ月以内に財産分与の請求をしなければなりません(民法958条の3)。ご自身が特別縁故者にあたると考えている方は、期間内に請求しなければ財産を受け取れないので注意してください。
請求があった場合、裁判所が特別縁故者に該当するか、該当する場合にはどの程度の財産を分けるべきかを判断します。
請求が認められれば、相続財産管理人により財産分与の手続きが進められます。

残った財産を国庫に引き継ぐ

上記の手続きを終えた段階で残った財産があれば、相続財産管理人が国庫に引き継ぐ手続きを行います(民法959条)。

相続財産管理人に関してお悩みの方は弁護士にご相談を


ここまで、相続財産管理人について、必要なケースや選任手続きなどについて解説してきました。
故人の遺産を引き継ぐ人がいないときは、債権者、特別縁故者、受贈者、相続放棄をした相続人などが相続財産管理人の選任を申立てるべき可能性があります。とはいえ、申立てには手間や費用がかかり、遺産が少ないとコストに見合わないケースも少なくありません。
ご自身が相続財産管理人の選任を申立てるべきかお悩みの方は、弁護士にご相談ください。弁護士は申立ての必要性を判断し、手続きもサポートいたします。その他の相続に関する疑問点もまとめてご相談いただけます。
「故人にお金を貸していた」「相続人ではないが生前に献身的に介護した」「相続放棄した後の管理が心配」といった方は、ぜひ弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。

この記事を書いた弁護士

野俣智裕
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

  • 野俣 智裕

  • ■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
    ■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
    ■東京弁護士会信託法部

  • 信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。

  • 東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。

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