農地は信託できる?できるケースやできないときの対処法を解説

信託

「農地を信託したい」とお考えでしょうか?
民事信託(家族信託)において、農地を信託財産にすることはできません。農地を宅地に転用すれば信託が可能です。転用できないときには、任意後見や遺言を利用する選択肢があります。
この記事では、
●農地を信託できるか?
●農地を宅地に転用できるケース
●農地を信託できないときの対処法
などについて解説しています。
農地の管理・承継にお悩みの方にとって役に立つ内容となっていますので、ぜひ最後までお読みください。

農地の相続について知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
農地の相続はどうする?手続きや農業しないときの対処法を解説
農地以外の財産について、信託できるか否かを知りたい方は以下の記事をご覧ください。
信託できる財産・できない財産|できないときの対処法も解説

農地を信託できる?


民事信託(家族信託)は、財産の管理・承継のために有用な仕組みです。農地をお持ちの方は、信託の対象にしたいとお考えになるかもしれません。
まずは、農地の定義や信託できるかについて、法律上のルールを解説します。

そもそも農地とは?

農地とは、耕作の目的に供される土地です(農地法2条1項)。不動産登記簿上の地目は、「田」あるいは「畑」となっています。
ただし、農地であるかは現況から判断されます。
地目が「田」や「畑」でなくても、現在農業に利用されていれば農地です。休耕地であっても、耕作できる状態であれば農地とみなされます。
反対に、登記上は農地であっても、宅地などとして利用されていて耕作できない状態であれば、農地とは扱われません。
土地が農地に該当すれば農地法による規制を受け、売買や農地以外への転用などが制限されます。

農地は信託できない

農地は原則として信託財産にできません。
農地の所有権を移転する際には、農業委員会の許可が必要です(農地法3条1項)。民事信託では信託財産の所有権が委託者から受託者に移るため、農地を信託したければ許可を得なければなりません。
しかし、信託の引受けにより権利が移転する場合には、許可できないとされています(農地法3条2項3号)。仮に農地の所有権を移転する内容の信託契約を結んだとしても、農業委員会の許可を得ていないため無効です(農地法3条6項)。
したがって、農地の所有権を移転して信託の対象にすることはできません。

農地を転用すれば信託できる


農地のままでは信託できませんが、農地以外に転用すれば農地法の規制を受けないため、信託財産にできます。

農地の転用とは?

農地の転用とは、農地を農業以外を目的とする土地に変えることです。
たとえば、農地を宅地に転用すれば、自宅を建てて居住できます。賃貸用不動産を建設したり、駐車場にしたりして収益を上げることも可能です。
農地を信託して農業以外の用途に利用したいのであれば、転用の手続きをする必要があります。

転用できるケース

農地を転用できれば、信託財産に含めることが可能です。ただし、農業の生産力を維持するために農地の転用は制限されています。
転用のために必要な手続きは、農地が「市街化調整区域」にあるか「市街化区域」にあるかで大きく変わります。

市街化調整区域では許可が必要

市街化調整区域にある農地の転用には、許可を得なければなりません(農地法4条1項本文5条1項本文)。
市街化調整区域とは、建物がむやみに建築されないようにして、都市化が抑制されているエリアです。市街化調整区域にある農地を転用するには許可が必要であり、時間がかかります。立地によっては転用の要件が厳しく、認められないケースもあります。
市街化調整区域にある農地の転用は、手間がかかりハードルも高いです。

市街化区域では届出で足りる

市街化区域にある農地を転用するときは、農業委員会への届出で足ります(農地法4条1項7号5条1項6号)。
市街化区域とは、都市化が推進されているエリアです。市街化区域内にある農地は届出により転用できるため、宅地などにするハードルが低いです。手続きは短い期間ですみます。
農地が市街化区域にあれば、信託の対象にして建物を建築しやすいです。

信託の方法


農地を信託するためには、許可を得て、あるいは届出をして、宅地などに転用するのが不可欠です。あらかじめ委託者が転用する方法と、受託者に権利を移してから転用する方法があります。

委託者が転用してから信託する

委託者になる予定の農地所有者が、先に農地を転用する方法です。農地法4条に基づく許可・届出をすませて宅地に転用してから、信託契約を結びます。
委託者になる予定の人が転用手続きをする必要があるため、高齢で途中で認知症になるおそれがある場合には利用しづらい方法です。

信託してから受託者が転用する

信託契約を結んでから、受託者となった人が転用手続きを進める方法です。農地法5条に定められた「転用目的権利移転」を利用します。
先に農地の権利移転をすませるため、転用手続きは受託者が行います。委託者が認知症になるリスクがあるときには、先に信託契約を結ぶ方法が望ましいです。

農地を信託する事例


農地を転用して信託する事例をご紹介します。

●登場人物:父A(75歳)、長男B(45歳)
●Aは農地を所有しているが、高齢のため耕作はできなくなった。
●農地に賃貸アパートを建築して収益を上げたいが、A自身で管理するのは難しいため、長男Bに任せたい。
●農地は都市部の市街化区域にある。

このケースでは、以下のスキームで信託契約を結ぶ方法が考えられます。
●委託者 :父A
●受託者 :長男B
●受益者 :父A
●帰属権利者 :長男B
農地は市街化区域にあるため、届出をするだけで宅地に転用できます。状況や希望によって、先に父Aが転用手続きをしてから信託契約を結んでも、信託契約をした後で受託者の長男Bが転用や建物建築を進めるとしても構いません。Aに認知症のリスクがあれば、早めにBに権限を移した方がよいです。
受託者であるBは、建築したアパートを受益者でもあるAのために管理します。アパートから得た収益は、契約の定めにしたがって、Aの生活費や将来の介護費などに充てることが可能です。
Aが亡くなった後の帰属権利者をBにしておけば、Aの死後はBが自分の財産として土地・建物の管理を続けられます。

農地を信託できないときの対処法


農地は転用できれば、信託の対象にできます。
しかし、立地によっては転用が難しいケースも想定されます。また、農地のまま活用したい場合もあるでしょう。
農地である以上、信託財産にはできません。そのときには、以下の方法で対処してください。

売却する

農地のまま、農業を営んでいる第三者に売却する方法があります。農地を売買する際には、農業委員会の許可が必要です(農地法3条1項)。
相手が見つかるのであれば、売却が選択肢になります。相続人になる予定の子が農業を続ける気がない場合には、早めに売却してしまうのもよいでしょう。

任意後見や遺言を利用する

農地のまま管理・引き継ぎをしたいのであれば、任意後見や遺言を利用しましょう。
本人が生きている間に管理を任せるときには、任意後見を活用します。死後の引き継ぎについて定めるのであれば、遺言書を作成してください。
任意後見や遺言は、民事信託との併用も可能です。農地以外の財産は信託し、農地については任意後見や遺言で対応する方法もあります。

農地を信託したい方は弁護士にご相談を


ここまで、農地の信託について、転用できるケースや活用事例、信託できないときの対処法などについて解説してきました。
農地のままでは、民事信託の対象にはできません。宅地などに転用できれば、信託財産にできます。
特に市街化区域にある農地については、届出だけで転用できるため、信託の対象にしやすいです。宅地に転用できれば、収益用不動産を建築するなどして土地を有効に活用できます。
転用が難しい場合や、農地のまま使いたい場合には、任意後見や遺言の利用もご検討ください。

農地には特別な法規制があるため、特に専門家の関与が欠かせません。農地の信託を検討している方は、弁護士法人ダーウィン法律事務所までご相談ください。
民事信託は比較的新しい制度で仕組みが複雑であるため、対応できる専門家が限られています。弁護士であっても、十分に対応できるとは限りません。
当事務所は民事信託に力を入れており、豊富な経験を有しています。現在の状況や希望をお聞きしたうえで、実現できる方法をオーダーメイドでご提案いたします。任意後見や遺言の利用も可能です。農地を管理・承継するためにベストな方法を一緒に考えましょう。
「農地を信託したい」とお考えの方は、お気軽に弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。

この記事を書いた弁護士

野俣智裕
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

  • 野俣 智裕

  • ■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
    ■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
    ■東京弁護士会信託法部

  • 信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。

  • 東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。

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