共有不動産を信託するメリット・注意点や事例を弁護士が解説

信託

相続などにより共有名義になった不動産をお持ちではありませんか?
不動産が共有状態にあると、売却や建て替えに全員の同意が必要であり、ひとりが認知症になると深刻な問題が生じます。加えて、放置しているうちに誰かが亡くなって相続が発生した場合、共有者が増加するおそれもあります。
共有により生じる問題への有効な対策が、民事信託(家族信託)の活用です。信託により権限を集中させれば、スムーズに不動産の管理・処分を行えます。
この記事では、
●共有不動産を信託するメリット
●共有不動産を信託して活用する事例
●共有不動産を信託するときの注意点
などについて解説しています。
共有名義の不動産をお持ちの方にとって参考になる内容となっていますので、ぜひ最後までお読みください。

また、共有不動産の相続については、以下の記事で詳しく解説しています。あわせて参考にしてください。
参考記事:共有名義の不動産を相続するには?流れや問題点・解決策を解説

不動産を共有名義にしておく問題点


不動産の共有とは、土地や建物を複数の人で所有している状態です。相続などにより不動産の共有が生じ、そのままにしている方も多いのではないでしょうか。
しかし、不動産を共有名義のままにしておくと、以下の問題があります。

反対者がいると売却・建て替えができない

共有不動産に対しては複数人が権利を有しているため、自分だけで自由に利用・処分ができない場合があります。
たとえば、売却や建て替えなどは変更行為に該当し、持分権利者全員の同意が必要です(民法251条1項)。ひとりでも反対する人がいれば、共有不動産の売却や建て替えはできません。
共有状態にあるために、不動産の利用や処分を思うように進められない可能性があるのは大きな問題といえます。

ひとりでも認知症になると処分できない

持分権利者全員の同意が必要な行為については、共有者のひとりが認知症になったときにも問題が生じます。
認知症になって法的判断能力がなくなると、同意そのものができません。同意を取り付けた形を作ったとしても無効です(民法3条の2)。
認知症になった共有者に成年後見人をつける方法はありますが、できる行為には制限があり、他の共有者の思い通りになる保証はありません。
したがって、共有者のひとりが認知症になると、売却などの処分ができなくなるリスクがあります。

相続により共有者が増える

共有者のひとりが亡くなると、相続が発生します。配偶者や子が相続人となり、不動産の共有者がさらに増えるおそれがあります。
たとえば、親が持っていた不動産を子である3姉妹が相続し、共有していたとしましょう。その状態で長女が亡くなれば、長女の配偶者や子が相続人です。長女の相続人全員で不動産の権利を引き継げば、共有者は増加します。姉妹間に比べて関係が遠いために、意思決定はより困難になるでしょう。
不動産を共有のまま何の対策もせずに放置していると、相続により関係者が増え、問題がより深刻になるリスクがあるのです。

共有不動産のトラブルは民事信託(家族信託)で対策できる!


共有不動産から生じる問題については、民事信託(家族信託)での対策が有効です。民事信託の概要やメリットについて解説します。

そもそも民事信託とは?

民事信託とは、財産を引き継ぐために、信頼できる人に財産の管理・処分を任せる仕組みです。家族に任せるケースが多いため「家族信託」とも呼ばれます。
民事信託においては、以下の3つの当事者が登場します。
●委託者:財産を他人に預ける人
●受託者:財産を預かって管理する人
●受益者:財産から生じる利益を受ける人
「委託者」の財産を「受託者」が引き受け、「受益者」のために財産を管理・処分する仕組みです。形式的には「委託者」から「受託者」に財産の所有権が移りますが、「受託者」は「受益者」のために財産を管理・処分します。「受託者」が財産から自由に利益を享受することはできません(信託法8条)。
民事信託の活用例としては、認知症対策として、高齢の親が「委託者兼受益者」、子が「受託者」になって、子が親のために財産管理を行うケースが典型的です。
委託者が死亡したときの権利者も定められるため、遺言の代わりに財産の引き継ぎにも利用できます。他の制度では難しい柔軟な定め方が可能なため、財産管理・承継対策として近年注目が集まっています。
参考記事:民事信託とは?活用法やメリット・デメリットを弁護士が解説

共有不動産を信託するメリット


民事信託は、共有不動産にも活用できます。共有不動産を信託財産とすると、以下の点がメリットです。

受託者の判断で管理・処分できる

民事信託の受託者には、不動産に関する権限を集中させられます。契約の定めに沿って、売却や建て替えといった処分も可能です。共有者の同意を取り付ける必要がなくなるため、都度相談して方針を決定する手間が省けます。
高齢の共有者が認知症になっても、受託者が管理・処分を継続できます。「お金が必要なのに認知症の人がいて売れない」「老朽化したのに建て替えの同意を得られない」といった問題も生じません。
民事信託を利用すれば、共有不動産にありがちな「全員の同意がとれない」という事態を未然に防げます。

利益を共有者間で分けられる

管理・処分権限を受託者に集中させても、受益者である共有者間で、不動産から生じた利益を分配することが可能です。
たとえば、共有している賃貸用不動産を信託財産として信託契約を結んだとします。受託者が管理を行いつつも、毎月発生した賃料を全員で公平に分配するように定めておけば、共有者は受益者として利益を享受できます。
受託者に権限が集中することを心配される方もいるでしょう。しかし、適切に仕組みを作っておけば、管理の負担を無くしつつ共有者間で利益を分けることが可能です。

相続による問題を防げる

共有不動産で心配なのが、相続によって共有者が増える点です。民事信託では、共有者の死亡に伴う相続発生にも備えられます。
共有者のひとりが亡くなっても、受託者の職務は続けられます。相続により権利者が変わっても、あらかじめ信託により権限を受託者に集中させている以上、継続して管理・処分が可能です。「新たに共有者となった相続人の同意が得られず、不動産を処分できない」という事態も生じません。
民事信託を利用すれば、相続発生後の共有者増加によるトラブルも防止できるのです。

共有不動産を信託して活用する事例


共有名義の不動産を信託財産にして活用する事例を2つご紹介します。

共有者のひとりに権限を集中させる

1つ目は、共有者のひとりに権限を集中させる事例です。

●父Aが亡くなって相続が発生し、収益用不動産が母B(80歳)、長男C(50歳)、長女D(45歳)の共有状態になっている。
●Bは高齢であるため認知症になる心配がある。
●Dは遠隔地に居住しているため不動産の管理は難しく、近くに住むCに任せたい。
●BやDの生活のために、不動産から生じる収益を分配したい。

このケースでは、BとDの持分について、以下のスキームで民事信託契約を結び、Cに権限を集中させる方法が考えられます。
●委託者 :母B、長女D
●受託者 :長男C
●受益者 :母B、長女D
委託者となる母Bと長女Dが、受益者も兼ねています。「委託者=受益者」とすれば設定時に贈与税を課税されずにすむため、民事信託では設定当初は「委託者=受益者」とするケースが多いです。
受託者である長男Cに権限を集中させており、Cの判断で管理・処分ができます。母Bが認知症で判断能力を失ったとしても、Bの同意を得ずに不動産の建て替えや大規模修繕が可能です。Bの介護施設入居のために大金が必要になれば、売却もできます。
不動産から生じた賃料収入は受益者であるBやDに分配できるため、今後の生活も安心です。

共有者以外に管理・処分を任せる

2つ目は、共有者以外の家族に管理・処分を任せる方法です。

●30年前に父Aが亡くなって相続が発生し、収益用不動産が長男B(80歳)、次男C(75歳)、三男D(70歳)の共有状態になっている(持分1/3ずつ)。
●B・C・Dは話し合いながら不動産を管理してきたが、高齢のため管理の継続が難しく、認知症の心配もある。
●家の後継ぎである長男の子E(45歳)に不動産の管理を任せたいと考えている。
●今後の生活のために、不動産の賃料はB・C・Dで分配したい。

このケースでは、B・C・Dの持分について、以下のスキームで民事信託契約を結び、Eに管理を任せる方法が考えられます。
●委託者 :長男B、次男C、三男D
●受託者 :長男の子E
●受益者 :長男B、次男C、三男D
前述のケースと同様に、B・C・Dを「委託者兼受益者」としているため、設定時に贈与税は課税されません。
長男の子Eが受託者となって、B・C・Dにかわって不動産の管理を行います。B・C・Dのいずれかが認知症になっても、Eの判断で建て替えや大規模修繕が可能です。賃料収入は受益者であるB・C・Dに分配します。
B・C・Dのいずれかが亡くなって相続が発生し、妻子が受益権を得ても、Eが管理権限を有している点に変わりはありません。共有者の増加により合意形成ができない問題もクリアできます。
民事信託を利用すれば、共有者が生きている間はもちろん、亡くなった後でもトラブルが生じないような仕組みを作れます。

共有不動産を信託するときの注意点


共有名義の不動産を信託するときには、以下の点に注意してください。

受託者を誰にするかがポイント

民事信託では、財産の管理を行う受託者の存在が不可欠です。受託者は共有者の中から選ぶ、他の親族に依頼するなど、様々な選択肢があります。
いずれにしても、受託者は信頼できる人物でなければなりません。ルールを守れない人を受託者にしてしまうと、かえってトラブルになるおそれがあります。
信頼できる人を受託者に選ぶのが、信託におけるポイントです。心配であれば専門家を信託監督人につけ、受託者を監視する方法もあります。関係者が納得できるように、よく話し合って進めましょう。

詳しい専門家が少ない

民事信託は仕組みが複雑であり、契約書の作成等に専門家の関与を必要とします。もっとも、制度の歴史が比較的浅いため、詳しい専門家が少ないのが実情です。弁護士であっても、民事信託には対応していない場合があります。
内容に問題がない契約書を作成し、手続きを円滑に進めるには、信託に精通した専門家に依頼しなければなりません。取扱い経験が豊富な弁護士を探して依頼するようにしてください。

共有不動産の信託を検討している方は弁護士にご相談を


ここまで、共有不動産を信託するメリットや事例などについて解説してきました。
不動産を共有名義のままにしておくと、全員の同意がないと売却ができない、相続により関係者が増加するなどの問題があります。トラブル防止のためには、民事信託により、受託者の判断で必要な管理・処分ができるようにしておくのが有効です。

共有不動産の管理・承継にお悩みの方は、弁護士法人ダーウィン法律事務所までご相談ください。
当事務所は民事信託に力を入れており、豊富な経験を有しています。現在の状況や希望をお聞きしたうえで、信託以外の方法も含め、実現できる方法をオーダーメイドでご提案いたします。
「不動産の共有トラブルの対策をしたい」とお考えの方は、お気軽に弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。

この記事を書いた弁護士

野俣智裕
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

  • 野俣 智裕

  • ■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
    ■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
    ■東京弁護士会信託法部

  • 信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。

  • 東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。

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