不動産を民事信託(家族信託)の対象にしたときには、登記が必要です。登記の際には、登録免許税を支払わなければなりません。
信託でかかる登録免許税は、売買をしたときに比べると低額ですが、不動産の価値が高いときには無視できない金額になります。信託を利用する際にかかる費用として、あらかじめ知っておく必要があるでしょう。
この記事では、
などについて解説しています。
信託の利用を検討している方に知っておいて欲しい内容ですので、ぜひ最後までお読みください。
目次
不動産を信託財産にするときには、登記が必要です。
信託においては、対象となった財産の所有権が形式的に委託者から受託者へと移転します。不動産の場合には、信託財産となり所有権が移転した事実が第三者にわかるように、登記をしなければなりません(信託法14条、34条)。
登記簿謄本(登記事項証明書)は誰でも取得でき、信託の事実を登記しておけば、内容を確認した人に信託の対象だと明らかになります。反対に登記をしていないと、委託者の債権者から差押えをされるなど、トラブルの元になり得ます。
自宅であるか収益用であるかを問わず、土地・建物を信託財産にするときには、登記が不可欠です。
不動産を信託するために登記する際には、登録免許税を支払わなければなりません。
登録免許税とは、法務局で登記手続きをする際にかかる税金です。税額は、登記の種類や不動産の評価額によって変わります。信託の場合には売買による所有権移転と比べて割安になっているものの、価値の高い不動産を信託財産にするときにはある程度高額になり得ます。
場面 | 登記の種類 | 登録免許税の金額 |
---|---|---|
信託設定時 | 所有権移転登記 | 非課税 |
信託登記 | ・土地:固定資産税評価額の0.3% ・建物:固定資産税評価額の0.4% |
|
受益者変更 | 変更登記 | 不動産1個につき1,000円 |
受託者変更 | 所有権移転登記 | 非課税 |
契約内容変更 | 変更登記 | 不動産1個につき1,000円 |
不動産売却 | 所有権移転登記 | ・土地:固定資産税評価額の1.5% ・建物:固定資産税評価額の2% |
信託登記抹消登記 | 不動産1個につき1,000円 | |
信託終了時 | 所有権移転登記 | 固定資産税評価額の2% ※0.4%になる場合あり |
信託登記抹消登記 | 不動産1個につき1,000円 |
各場面について、順に詳しく解説します。
信託を設定する際には、所有権移転登記と信託登記を行います。
信託では、形式的にではありますが、対象財産の所有権が委託者から受託者へと移転します。所有権が移転した事実が誰から見ても明らかになるように、登記簿に記載しなければなりません。
信託で所有権が移転する場合、所有権移転登記については登録免許税が非課税となります(登録免許税法7条1項1号)。信託財産として管理するために形式的に受託者へと所有権を移しますが、実質的な権利は移転していないためです。売買で所有権を移転するケースとは異なります。
したがって、信託を設定するとき、所有権移転登記については登録免許税がかかりません。
不動産を信託する際には、所有権移転登記の他に、信託登記も必要です。信託登記をすれば、不動産が信託財産であると第三者に示せます。委託者・受託者・受益者に関する情報など、信託のおおまかな内容が「信託目録」に記載されます。
信託登記は登録免許税の課税対象です。課税額は、固定資産税評価額を基準に決まります。
土地については、固定資産税評価額の0.3%です(租税特別措置法72条1項2号)。建物については、固定資産税評価額の0.4%になります(登録免許税法9条、別表第一1号(十)イ)。
たとえば、固定資産税評価額1,000万円の土地を信託したときには、信託登記の登録免許税は3万円です。
受益者が変わった際には、信託目録の記載内容を変更しなければなりません。変更登記を行います。
変更登記の登録免許税は、不動産1個につき1,000円です(登録免許税法9条、別表第一1号(十四))。通常の相続であれば固定資産税評価額の0.4%の登録免許税が課されるのと比べると低額ですむため、節税のために利用される場合もあります。
受託者が死亡や辞任によって変更したときにも、登記が必要です。所有権者が変わるため、所有権移転登記を行います。
新たな受託者についても形式的に所有権者になるだけであり、実質的な権利者は変わっていません。したがって、登録免許税は非課税です(登録免許税法7条1項3号)。
当事者以外の契約内容を変更するときにも、登記の記載を変更する必要があります。
変更登記の登録免許税は、不動産1個につき1,000円です。
資金を得る目的などで、信託された不動産を売却するケースもあります。売却する際には、所有権移転登記と、信託抹消登記が必要です。それぞれ登録免許税が課税されます。
売買により所有権が受託者から購入者に移転するため、所有権移転登記を行います。
登録免許税は、建物については固定資産税評価額の2%です(登録免許税法9条、別表第一1号(二)ハ)。土地については、特例により固定資産税評価額の1.5%に軽減されています(租税特別措置法72条1項1号)。いずれにしても、設定時よりは高額です。
売却によって信託の対象から外れるため、信託登記の抹消登記が必要になります。
登録免許税は不動産1個につき1,000円です。
信託終了時には、受託者から帰属権利者への所有権移転登記と、信託登記の抹消登記が必要です。
信託終了に伴って帰属権利者に権利が移転するため、所有権移転登記を行います。
通常は、所有権移転登記の登録免許税は固定資産税評価額の2%です。
もっとも、帰属権利者が委託者の相続人であるケースでは、相続による所有権移転登記と同様に扱われます(登録免許税7条2項)。したがって、登録免許税は固定資産税評価額の0.4%です(登録免許税法9条、別表第一1号(二)イ)。
登録免許税7条2項の要件を満たすためには、委託者の地位の承継について契約書に正しく定めておく必要があります。無駄な登録免許税の支払いを避けるために、信託に詳しい専門家に契約書を作成してもらうようにしましょう。
信託が終了して対象ではなくなるため、信託登記の抹消登記も必要になります。
売却時と同様に、登録免許税は不動産1個につき1,000円です。
信託をする際には、大半のケースで契約書を作成します。信託契約書は公正証書にするのが一般的です。
公正証書とは、市民の依頼を受けて公証人が作成する文書です。法律の専門家である公証人のお墨付きを得ることで、トラブル予防や信託口口座の開設が可能になります。
公正証書を作成する際には手数料がかかります。金額は、目的となる財産の価額によって以下の通りです。
目的の価額 | 手数料 |
---|---|
100万円以下 | 5,000円 |
100万円を超え200万円以下 | 7,000円 |
200万円を超え500万円以下 | 11,000円 |
500万円を超え1,000万円以下 | 17,000円 |
1,000万円を超え3,000万円以下 | 23,000円 |
3,000万円を超え5,000万円以下 | 29,000円 |
5,000万円を超え1億円以下 | 43,000円 |
1億円を超え3億円以下 | 43,000円+超過額5,000万円ごとに13,000円 |
3億円を超え10億円以下 | 95,000円+超過額5,000万円ごとに11,000円 |
10億円を超える | 249,000円+超過額5,000万円ごとに8,000円 |
信託財産の価値が高ければ、ある程度の費用がかかります。とはいえ、トラブル予防のためには公正証書にするのが望ましいです。
民事信託を公正証書ですべきことについては、以下の記事で解説しています。
参考記事:民事信託(家族信託)は公正証書ですべき!メリットや流れを解説
民事信託は契約内容が複雑であるため、思い通りの内容にするためには専門家への依頼が必要になります。専門家に頼まずにひな形を使いまわそうとしても、何らかの問題が生じる可能性が高いです。
専門家に契約書の作成、公正証書化、信託登記などを依頼すれば、報酬が発生します。依頼する事務所や財産の内容によりますが、数十万円から100万円程度が目安です。
たしかにお金はかかりますが、間違いなく信託を始めるには専門家への依頼をおすすめします。信託は制度の歴史が浅く専門家であっても詳しくない場合があるため、取り扱い経験が豊富な専門家を探して依頼するようにしましょう。
ここまで、信託でかかる登録免許税について解説してきました。
不動産を信託財産にするケースでは、登記の際に登録免許税を支払わなければなりません。後で慌てないために、事前に金額を把握しておくようにしましょう。
信託の利用を検討している方は、弁護士法人ダーウィン法律事務所までご相談ください。
当事務所は民事信託に力を入れており、豊富な経験を有しています。現在の状況をお聞きしたうえで、法的リスクを避けつつ希望を実現できる方法をオーダーメイドでご提案可能です。
想定される費用についても、丁寧に説明いたします。「登録免許税を含めて信託にかかる費用が心配」と不安をお持ちの方でも、お気軽に弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。
弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士
野俣 智裕
■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
■東京弁護士会信託法部
信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。
東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。