「自分の死後は後妻に、後妻の死後は前妻との子に財産を引き継がせたい」とお悩みでしょうか?
再婚しているときには、後妻だけでなく、前妻との間に生まれた子も相続人になります。前妻との子と後妻は疎遠である場合も多く、トラブルになりやすいです。
加えて、後妻が相続した財産は、後妻の死後は後妻の親族に引き継がれてしまい、前妻との子には渡りません。前妻との子に財産を残したくても、遺言書では完全な対策は不可能です。
そこで、民事信託(家族信託)の利用が有力な選択肢になります。信託を用いれば「後妻→前妻との子」の順に財産を引き継がせることも可能です。
この記事では、
●後妻と前妻との子が相続人のときに生じる問題
●後妻の死後に前妻との子に財産を引き継がせるには?
●信託を用いて後妻の死後に前妻との子に財産を引き継がせる方法
などについて解説しています。
後妻だけでなく、前妻との子にも希望通りに財産を引き継がせたいとお考えの方は、ぜひ最後までお読みください。
目次
再婚している方は、ご自身が亡くなった際に、配偶者である後妻だけでなく、前妻との子も相続人になります。後妻との間に子がいるかどうかに関係なく、前妻との子は相続人です。
前妻との子がいるときには、相続で以下の問題が生じます。
前妻との子と後妻は、相続をめぐってトラブルになりやすいです。
両者は親子ではないため関係性が希薄であり、日常的な交流がない場合が多いでしょう。後妻は「自分と血がつながっていない子が遺産を受け取るのは許せない」と思ってしまいます。対して、前妻との子は「後から現れた人に財産を奪われたくない」と考えがちです。
遺言書がなければ、相続人全員で遺産分割協議をしなければなりません。しかし、そもそも前妻との子が協議に呼ばれない、協議があってもなかなか合意できないといった問題が生じてしまいます。
無事に遺産分割協議が成立したとしても、後妻の死後に前妻との子が相続人になれない問題が残ります。
後妻が亡くなった際には、①後妻の子、②後妻の両親、③後妻の兄弟姉妹の順に、相続人の資格を得ます。いずれにしても、後妻の側の親族に財産が渡ってしまうのです。後妻との間に子がいるならまだしも、後妻の両親や兄弟姉妹といった関わりの薄い親族に大切な財産が渡るのは、心理的に許せない方も多いでしょう。
「自宅は、自分の死後は後妻に、後妻の死後は前妻との子に」と考えていても、そのままでは希望が実現しません。前妻との子が後妻の相続人にならない点を頭に入れて、事前に対策をとる必要があります。
では、後妻の死後に前妻との子に財産を引き継がせるには、どうすればよいのでしょうか?
まず考えられるのが、前妻との子と後妻が養子縁組を結ぶ方法です。
血縁関係がなくても、養子縁組を結べば法律上の親子となります。養子にも子として相続権が認められるため、後妻が亡くなった際の相続人となり、財産を引き継げます。
もっとも、養子縁組は強制できません。当事者同士の関係が疎遠であれば、養子縁組により相続権を持たせるのは困難です。
後妻が遺言を書く方法もあります。
遺言により、法定相続人以外の人に財産を残すことが可能です。後妻が「前妻との子に財産を渡す」旨の遺言を書いてくれれば、前妻との子に財産を引き継がせられます。
もっとも、遺言を残すかは後妻の意思次第です。事前に約束していたとしても、その通りに遺言書が作成される保証はありません。いったん遺言を書いたとしても、後から書き換えたり撤回したりする可能性もあります。
希望通りになる保証がない以上、後妻に遺言を書いてもらうのは確実な方法とはいえません。
「自分が遺言で指定しておけばいい」とお考えになるかもしれません。
しかし、遺言書で決めておけるのは、自分が死亡した際の相続に限られます。「自宅不動産を後妻に」という遺言はできても、「後妻の死亡後は前妻との子に」とは定められないのです。
先々の相続までは決められないため、遺言では十分な対策ができません。
民事信託(家族信託)を用いれば、後妻の死亡時の財産承継についても定めが可能です。
民事信託は、財産を引き継ぐために、信頼できる人に財産の管理・処分を任せる仕組みです。家族に任せるケースが多いため「家族信託」とも呼ばれます。
民事信託においては、次の3つの当事者が登場します。
●委託者:財産を他人に預ける人
●受託者:財産を預かって管理する人
●受益者:財産から生じる利益を受ける人
「委託者」の財産を「受託者」が引き受け、「受益者」のために財産を管理・処分する仕組みです。民事信託は、認知症対策としてよく利用されています。
(参考記事)
・民事信託とは?活用方法やメリット・デメリットを弁護士が解説
・民事信託(家族信託)による認知症対策|メリットや注意点を解説
民事信託は、当事者の死亡後の権利者も定められるため、遺言の代わりに財産の引き継ぎに利用できます。大きな特徴が、遺言とは異なり、自分の死亡時だけでなく先々の財産承継についても指定できる点です(信託法91条)。
したがって「自分が死んだとき自宅は後妻に、後妻の死後は前妻との子に」という決め方もできます。民事信託を利用すれば、遺言ではできない二次相続の指定を実現できるのです。
民事信託を利用すれば、財産を「後妻→前妻との子」の順に引き継がせることが可能です。
例として、以下のケースで説明します。
このケースでは、以下のスキームで民事信託契約を結ぶ方法が考えられます。
●委託者 :夫A
●受託者 :甥F
●第1受益者 :夫A
●第2受益者 :後妻D
●帰属権利者 :長男C(前妻との子)
最初の受益者は、委託者であるA自身となっています。「委託者=受益者」とすれば設定時に贈与税を課税されずにすむため、民事信託では設定当初は「委託者=受益者」とするケースが多いです。
Aが死亡した際には、第2受益者である後妻Dが財産を引き継ぎます。この際、相続税が課税されます。
Dも死亡したときの帰属権利者を前妻との子である長男Cとしているため、Aの希望通り、最終的にCに財産を引き継がせることが可能です。この際も相続税が課税されます。
受託者は、信頼できる甥Fに任せています。弟Eを受託者とする方法もありますが、信託の存続期間が長いと想定されるため、より若い甥Fを受託者としました。
実際にどういったスキームにするかは、状況によりケースバイケースです。ご自身の場合どうすべきかは、弁護士などの専門家にご相談ください。
前妻との子と後妻がいるときに民事信託を利用する場合には、以下の点に注意してください。
民事信託には、受託者の存在が不可欠です。受託者は財産管理などの業務を担うため、信頼のおける人物でなければなりません。親族の中に適任者がいないケースもあるでしょう。
また、「後妻→前妻との子」と財産を引き継がせる場合には、信託期間が長くなると想定されます。同世代の親族を受託者とすると、後妻よりも先に亡くなってしまい、任務を果たせなくなるおそれがあります。より若い世代の親族を受託者とする、あらかじめ「第2受託者」を指定しておくなどの方法をご検討ください。
なお、弁護士などの専門家は受託者にはなれません。「信託監督人」として受託者の職務を監督することは可能です。
民事信託でも遺留分を侵害する可能性があります。遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人が有する、最低限の遺産の取り分です。
後に子が財産を引き継げるとしても、後妻が亡くなるまで権利は実現しません。信託を利用して後妻に財産の大半を引き継がせると、子の遺留分を侵害してしまいます。「遺留分侵害額請求」がなされて、トラブルに発展するリスクがあります。
遺留分をめぐる争いを避けるために、自分が死亡した際にも一定の財産を子に残すようにしておくなど、配慮が必要です。
(参考記事)
・遺留分の計算方法|具体例や請求方法もわかりやすく解説
・遺留分侵害額請求とは?請求金額・請求方法や時効期間を弁護士が解説
民事信託は仕組みが複雑で手続きも面倒であるため、利用する際には専門家の力を借りるのが事実上不可欠といえます。しかし、制度の歴史が比較的浅いため、詳しい専門家が不足している点が問題です。
弁護士であっても、民事信託をうまく利用できるとは限りません。問題のある内容とならないように、信託に精通した弁護士を探して依頼する必要があります。
ここまで、前妻との子と後妻が関係する財産承継について、信託を利用する方法などについて解説してきました。
「後妻→前妻との子」の順に財産を引き継がせたいときには、遺言では十分な対策ができません。民事信託を利用すれば、自分の思い通りの財産承継を実現できます。
前妻との子と後妻がいて財産承継にお悩みの方は、弁護士法人ダーウィン法律事務所までご相談ください。
当事務所は民事信託に力を入れており、豊富な経験を有しています。現在の状況や希望をお聞きしたうえで、実現できる方法をオーダーメイドでご提案いたします。民事信託だけでなく、遺言の併用も可能です。
「後妻の死後に、前妻との子に財産を引き継がせたい」とお考えの方は、お気軽に弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。
弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士
野俣 智裕
■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
■東京弁護士会信託法部
信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。
東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。