預金は介護費用、不動産の管理費用など様々な用途があり、民事信託(家族信託)の対象にするメリットは大きいです。
もっとも、委託者名義の預金は、そのままでは信託財産にできません。いったん現金化したうえで、信託のために開設した口座に移す必要があります。
この記事では、
●預金を信託財産にする方法
●預金を信託するメリット
●預金を信託する際の注意点
などについて解説しています。
預金を民事信託の対象にしたいとお考えの方は、ぜひ最後までお読みください。
以下の記事では、預金以外の財産についても、信託できるか否かを解説しています。あわせて参考にしてください。
信託できる財産・できない財産|できないときの対処法も解説
目次
「預金を信託の対象にしたい」と考える方は多いでしょう。では、預金は信託財産にできるのでしょうか?
委託者名義の預金を、そのまま信託財産にすることはできません。金融機関との間で、預金の第三者への譲渡を禁止する特約があるためです。
預金をしている人は、銀行などの金融機関に対して「預けた金銭の引き出しを求める権利(預金債権)」を有しています。預金の名義人本人が金銭の引き出しを求められるのは、預金債権を有しているためです。
預金債権は預金者のものですから、他人が勝手に行使することはできません。
加えて、金融機関の許可を得ずに、預金者が預金債権を他人に譲渡することも禁止されています。これが「譲渡禁止特約」です。
民事信託においては、信託財産の所有権が委託者から受託者に移ります。しかし、預金債権には譲渡禁止特約が付されているため、委託者名義の預金を受託者がそのまま引き受けることはできません。
したがって、預金口座の名義を変更するなどして信託の対象にするのは不可能とされています。
預金口座に入っている金銭を信託財産にするには、いったん現金化する必要があります。
預金債権の譲渡は禁じられていますが、払い戻して現金化すれば、その後はどう使おうが自由です。他人に渡しても構いません。
実務上は、預金口座の中身を現金化したうえで、別途開設した信託のための口座に移し、信託の対象にしています。
預金を信託するまでは、以下の流れで進めます。
まずは、信託契約書を作成しなければなりません。契約書の中で、信託財産についても記載します。
預金口座情報(金融機関・支店・口座番号など)だけを記載している場合もありますが、厳密にいうと正確ではありません。預金そのものは信託財産にできないため、口座にある金銭を対象にしているとわかる記載が望ましいです。
そもそも信託契約書の内容は複雑であるため、自力で作成するのは難しいでしょう。間違いのない内容とするために、弁護士などの専門家に相談・依頼して作成してもらうようにしてください。
契約書を作成したら、信託のための口座を開設する金融機関と、事前に調整をする必要があります。
信託のための口座としては、信託口口座を開設するのが一般的です。信託口口座は、信託財産となった金銭を管理するために開設する特別な口座です。「委託者○○ 受託者○○ 信託口」など、信託のための口座であることが明らかな名義となっています。信託口口座を利用すれば、信託財産と受託者の財産を明確に区別できます。
信託口口座を開設する際には、信託契約書を公正証書にするよう求められるケースがほとんどです。金融機関によって求める条項が異なる場合があり、公正証書を作成した後で指摘されると再度作成する手間が生じます。事前に金融機関と契約条項を調整しておけば、手間を省けます。調整は弁護士が行うのでご安心ください。
なお、信託口口座に対応していない金融機関も多いです。信託口口座の利用は義務ではありません。信託口口座を開設できないときには、受託者個人名義の信託専用口座で代用できます。
金融機関との調整が済んだら、公正証書にします。公正証書は法律の専門家である公証人の関与があるため、信用性が高い文書とされています。公正証書を作成する際には、公証人との間で、事前に日程や内容について調整が必要です。
作成日になったら公証役場に出向いて内容を確認し、契約書を受け取ります。公正証書の作成には、所定の手数料がかかります。
民事信託契約を公正証書ですべきことについては、以下の記事を参考にしてください。
民事信託(家族信託)は公正証書ですべき!メリットや流れを解説
契約を公正証書にしたら、金融機関で信託口口座の開設手続きをします。契約書や本人確認書類などの必要書類を持参して、窓口に行きましょう。信託口口座を開設できない場合には、別途専用の口座を準備します。
信託口口座を開設したら、すみやかに委託者名義の預金口座から金銭を移します。
委託者が自己名義の預金を払い戻し、受託者に引き渡し、信託口口座に入金するという流れです。信託口口座に金銭が移ったら、管理を開始できます。預金の払い戻しは委託者が行う点に注意してください。
預金を現金化して信託口口座に移すと、以下のメリットがあります。
認知症になって法的判断能力を失うと、預金口座が凍結され、引き出せなくなってしまいます。
認知症になる前に信託して信託口口座に金銭を移しておけば、受託者となった子などが管理する財産となります。委託者名義の財産ではなくなるため、凍結回避が可能です。
凍結されなかった預金は、様々な用途に使用できます。
民事信託による認知症対策について詳しくは、以下の記事を参考にしてください。
民事信託(家族信託)による認知症対策|メリットや注意点を解説
信託口口座に入った預金は、契約の定めに応じて柔軟に利用できます。
典型的なのは、委託者である親の生活費・医療費・介護費として利用するケースです。急に寝たきりになるなどして多額の金銭が必要になっても、信託口口座から支出できます。
認知症になっても凍結されないため、子や配偶者が自分の身銭を切る必要はありません。
不動産の管理・修繕費用にも充てられます。
自宅不動産や収益用不動産が信託財産とされるケースは多いです。もっとも、不動産には管理費用がかかります。あわせて金銭も信託しておけば、管理・修繕に要する費用を支出できます。
不動産を信託財産にする場合には、あわせて一定の金銭も信託するのが一般的です。
預金を現金化して信託するのは有効な方法です。ただし、以下の点には注意してください。
預金を信託する際には、いったん払い戻して現金化しなければなりません。そこで問題になるのが、定期預金や外貨預金の扱いです。
定期預金は、普通預金よりも利率が高くなっています。途中で解約すると金利が低くなり、高金利の恩恵を享受できません。
外貨預金では、解約時期によっては為替相場の影響で元本割れするリスクが想定されます。そもそも中途解約できない場合もあります。
普通預金では、金銭を移すだけで問題は生じません。しかし、定期預金や外貨預金の場合には現金化により損をする可能性があります。信託の対象にするかどうかは慎重に検討してください。
民事信託は、財産の管理・承継について、問題が顕在化する前に備える仕組みです。認知症になった後では利用できません。
認知症になって預金口座が凍結された場合には、民事信託ではなく成年後見制度(法定後見)で対応します。もっとも、法定後見では預金の用途が限られ、柔軟に利用できません。専門家が後見人に就任するケースが多く、報酬が発生する点もデメリットです。
預金を信託したいのであれば、認知症になる前に早めに動くようにしてください。
民事信託と成年後見の違いについては、以下の記事を参考にしてください。
民事信託(家族信託)と成年後見の違い|どちらを利用?併用できる?
ここまで、預金を信託する方法について、メリットや注意点にも触れながら解説してきました。
預金そのものは信託の対象にできません。払い戻して現金化したうえで、信託のために用意した口座に移せば、信託財産にできます。信託財産になれば、契約の定めに応じて生活費・介護費・不動産の管理費などに利用が可能です。普通預金では大きな問題は生じませんが、定期預金・外貨預金では損になる場合もあるので注意しましょう。
民事信託の活用を検討している方は、弁護士法人ダーウィン法律事務所までご相談ください。
民事信託は比較的新しい制度で仕組みも複雑であるため、対応できる専門家が限られています。弁護士であっても、十分に対応できるとは限りません。
当事務所は民事信託に力を入れており、豊富な経験を有しています。現在の状況や希望をお聞きしたうえで、実現できる方法をオーダーメイドでご提案いたします。
「預金を信託したい」とお考えの方は、お気軽に弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。
弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士
野俣 智裕
■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
■東京弁護士会信託法部
信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。
東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。