借地権は信託財産にできる?できないときの対処法や承諾料相場も解説

信託

借地上の建物を信託したいときに問題になるのが、借地権を信託財産にできるかです。
借地権を信託の対象にすることは可能です。もっとも、地主の承諾が必要であり、承諾料を要求される可能性もあります。承諾料が高額で支払うのが難しい場合には、任意後見を利用する方法も検討しましょう。
この記事では、
●借地権は信託財産にできる?
●借地権を信託したときの注意点
●借地権を信託できないときの対処法
などについて解説しています。
借地権を信託したいとお考えの方にとって参考になる内容となっていますので、ぜひ最後までお読みください。

(参考記事)
借地権を相続するには?地主の承諾や手続きの流れについて解説
信託できる財産・できない財産|できないときの対処法も解説

借地権と民事信託(家族信託)の基礎知識


まずは、借地権と民事信託に関する基礎知識を解説します。

借地権とは?

借地権とは、建物の所有を目的とする地上権または土地の賃借権です(借地借家法2条1号)。
たとえば、自宅を建てて居住するために土地を借りる場合には、借地権を設定します。他には、土地を借りて事務所や倉庫など事業用の建物を建てるときにも利用されます。
建物所有のために土地を借りる権利であるため、駐車場や資材置き場のために土地を借りた場合は借地権には該当しません。

借地権は、地上権あるいは賃借権として設定されます。いずれも他人の土地を使用する権利ですが、地上権の方が賃借権よりも強い権利です。
地上権は物に対する権利であり、誰に対しても主張できます。譲渡や転貸(また貸し)も自由です。
対して、賃借権は当事者間でしか主張できません。譲渡や転貸には、土地所有者(地主)の承諾が必要になります(民法612条1項)。
土地を借りる側からすれば、より強力な地上権の方が望ましいです。反対に地主から見ると、賃借権の方が有利になります。
実際には、賃借権が利用されるケースが大半です。以下では、借地権は土地の賃借権であるとして解説します。

民事信託の仕組み

民事信託とは、財産を引き継ぐために、信頼できる人に財産の管理・処分を任せる仕組みです。家族に任せるケースが多いため「家族信託」とも呼ばれます。
民事信託においては、以下の3つの当事者が登場します。
●委託者:財産を他人に預ける人
●受託者:財産を預かって管理する人
●受益者:財産から生じる利益を受ける人
「委託者」の財産を「受託者」が引き受け、「受益者」のために財産を管理・処分する仕組みです。
民事信託では、形式的に「委託者」から「受託者」に財産の所有権が移ります。もっとも、「受託者」は「受益者」のために財産を管理・処分することを義務づけられています。信託財産から自由に利益を享受することはできません(信託法8条)。
活用例としては、認知症対策として、高齢の親が「委託者兼受益者」、子が「受託者」になって、子が親のために財産管理を行うケースが典型的です。
委託者が死亡したときの権利者も定められるため、遺言の代わりに財産の引き継ぎにも利用できます。他の制度では難しい柔軟な定め方ができるため、財産管理・承継対策として近年注目が集まっています。

(参考記事)
民事信託とは?活用法やメリット・デメリットを弁護士が解説
民事信託(家族信託)による認知症対策|メリットや注意点を解説

借地権は信託財産にできる?


民事信託において、借地上にある建物(自宅など)を信託財産にしたい場合もあるでしょう。では、土地を使用する権利である借地権も信託財産にできるのでしょうか?

地主の承諾が必要

借地権を信託財産にするのは可能ですが、地主の承諾が必要です。
信託をする際には、建物の所有権や土地の賃借権が、委託者から受託者へと移転します。法律上、土地の賃借権(借地権)の譲渡には、地主の承諾を要するとされています(民法612条1項)。したがって、信託に伴って借地権が譲渡される際には、地主の承諾が必要です。
もし承諾を得ずに信託をして借地権を受託者に譲渡してしまうと、地主に土地の賃貸借契約を解除されるおそれがあります(民法612条2項)。必ず事前に地主の承諾を得るようにしてください。話し合っても承諾してくれないときには、裁判所に許可を求めることも可能です(借地借家法19条1項前段)。

承諾料の相場

地主に承諾をお願いした際に、承諾料を要求される可能性もあります。承諾料の相場は、借地権価格の10%程度です。
10%という数字はあくまで相場であるため、交渉次第で減額してもらえる余地はあります。交渉の際には「財産管理のために家族に信託するだけであり、利用実態は変わらない」点を理解してもらいましょう。うまくいけば、承諾料を減額あるいは不要としてもらえるかもしれません。
都心であれば、借地権価格が高く、承諾料の支払いが難しいケースもあるはずです。支払いが困難な場合には、任意後見を利用する方法もあります。詳しくは後述します。

借地権を信託する事例


借地権を信託する事例として、以下のケースを考えます。

●登場人物:父A(80歳)、長男B(50歳)
●父Aは自宅不動産にひとりで暮らしている。自宅とは別に、借地上にある収益用アパートを所有し、賃料を生活の足しにしている。
●Aは高齢のためアパートの管理が難しくなっており、認知症の心配もある。
●Aの希望:長男Bに収益用アパートの管理をしてもらいたい。自分に介護が必要になったときには、自宅を売却して施設の入居費用にして欲しい。

このケースでは、自宅不動産、収益用アパート、借地権などを信託財産として、以下のスキームで信託契約を結ぶ方法が考えられます。借地権については、あらかじめ地主と交渉し、譲渡の承諾を得ておきましょう。要求されたときには承諾料の支払いも必要です。
●委託者 :父A
●受託者 :長男B
●受益者 :父A
●帰属権利者 :長男B
このスキームでは、委託者である父Aが、受益者も兼ねています。「委託者=受益者」とすれば、設定時に贈与税は課税されません。
受託者である長男Bは、Aのために自宅やアパートの管理のために必要な行為(修繕、地代の支払いなど)をします。アパートから得た賃料は、Aの生活費として利用できます。必要になれば、自宅を売却して介護施設の入居費用に充てることも可能です。
Aの死亡時の帰属権利者をBとしており、Aが亡くなった際にはBがスムーズに不動産を引き継げます。

借地権を信託したときの注意点


借地権を信託した際には、以下の点に注意してください。

建物の建て替えには承諾が必要

借地上の建物が老朽化し、建て替えを検討する場合もあるでしょう。借地契約では、借地上の建物について建て替えを制限する内容となっており、地主の承諾を要する場合が多いです。承諾を得られない場合には、裁判所に許可を申し立てます。
他には、建物を売却する場合にも、借地権の譲渡につき地主の承諾が必要です。
いずれにしても、借地上の建物については、利用・処分に制限がかかります。承諾料を要求される点も頭に入れておいてください。

融資にも承諾が必要

借地上の建物や借地権を担保にして金融機関から融資を受ける際にも、地主の承諾が必要になります。金融機関がトラブルを回避しようとして、地主の承諾を求める場合が多いためです。
担保設定の承諾については、裁判所に対して許可を求める制度は存在しません。地主が承諾をしてくれないと、融資を受けるのが難しくなってしまいます。

借地権を信託できないときの対処法


承諾料が高額で支払えないなど、借地権を信託するのが難しいケースもあります。その場合には、任意後見や遺言で対応する方法が考えられます。

任意後見を利用する

財産管理のために事前に備える方法としては、民事信託以外に任意後見があります。
任意後見は、認知症などで本人の判断能力が低下する前に、後見人になる予定の人と契約を結んでおく方法です。実際に本人の判断能力が低下したら、事前に委任されていた業務を後見人が本人に代わって行います。
借地権を対象に任意後見契約を結べば、地代の支払いや建物の修繕など、必要な事務を後見人に任せられます。
ただし、任意後見では融資を受けられないなど、民事信託に比べて不便な点があります(なお、民事信託においても融資を受けたい場合には事前に金融機関との調整と承諾を得ておく必要があります)。

(参考記事)
民事信託(家族信託)と成年後見の違い|どちらを利用?併用できる?

遺言により引き継ぐ

借地権の引継ぎについては、遺言を利用する方法が考えられます。
遺言により法定相続人に借地権を引き継がせる場合には、承諾料は必要ありません。遺言者の意思だけでできる点も特徴です。
ただし、遺言では生前の財産管理は定められません。財産管理については任意後見を利用するようにしてください。

(参考記事)
民事信託(家族信託)と遺言はどう違う?併用や優先関係についても解説

借地権を信託したい方は弁護士にご相談を


ここまで、借地権を信託できるか、信託する際の注意点、信託できないときの対処法などについて解説してきました。
借地権の信託は可能ですが、地主の承諾を得なければなりません。建物の建て替えや金融機関からの融資にも承諾が必要です。承諾料を支払えないなど信託が難しいときには、任意後見を利用する方法があります。

借地権の管理・承継にお悩みの方は、弁護士法人ダーウィン法律事務所までご相談ください。
民事信託は制度の歴史が浅く仕組みが複雑であるため、対応できる専門家が不足しています。弁護士であっても対応できるとは限りません。
当事務所は民事信託に力を入れており、豊富な経験を有しています。現在の状況や希望をお聞きしたうえで、任意後見や遺言も含めて、実現できる方法をオーダーメイドでご提案いたします。
「借地権を信託したい」とお考えの方は、お気軽に弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。

この記事を書いた弁護士

野俣智裕
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

  • 野俣 智裕

  • ■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
    ■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
    ■東京弁護士会信託法部

  • 信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。

  • 東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。

  • 所属弁護士・事務所詳細はこちら

  • 電話相談・オンライン相談・来所相談 弁護士への初回相談は無料

    相続・信託に特化したサービスで、相続・信託に関するお悩み問題を解決いたします。ぜひお気軽にご相談ください。
    ※最初の30分まで無料。以後30分ごとに追加費用がかかります。
    ※電話受付時間外のお問合せは、メールフォームからお問合せください。
    お電話受付:9時〜21時(土日祝も受付)
    0120-061-057