遺産分割協議に応じない相続人がいたら?リスクや対処法を解説

相続

「遺産分割協議に応じてくれない相続人がいる」とお悩みではないですか?
遺産の分け方を決めるためには、相続人全員で遺産分割協議をしなければなりません。
しかし、協議に応じてくれない相続人がいるケースがたびたび見受けられます。応じない理由としては、感情の対立など様々考えられるでしょう。
協議ができないまま時間が経つと、相続税の申告期限の経過、遺産の隠ぺい・使い込みなど多くのリスクがあるため、放置してはなりません。
場合によっては、遺産分割調停などの法的手段の検討も必要です。
この記事では、
●遺産分割協議に応じない理由
●遺産分割協議に応じない相続人を放置するリスク
●遺産分割協議に応じない相続人がいるときの対処法
などについて解説しています。
遺産分割協議に応じてくれない相続人にお悩みの方は、ぜひ最後までお読みください。

そもそも遺産分割協議とは?


まずは、そもそも遺産分割協議はどんなものかを解説します。

遺産の分け方を決める話し合い

遺産分割協議とは、遺産の分け方を決める話し合いです。
故人が遺言を書かずに死亡した場合には、相続人の間で話し合って、遺産の分け方を決める必要があります。
話し合いがまとまったら、結果を「遺産分割協議書」にまとめます。遺産分割協議書には、各人の署名・押印が必要です。遺産分割協議書があれば、名義変更などの各種相続手続きをスムーズに進められます。

相続人全員の参加が必須

遺産分割協議には、相続人全員が参加しなければなりません。
相続人の範囲は以下のルールで決まります。

●配偶者(夫・妻)は必ず相続人になる。
●次のうち、最も順位が上の人も相続人になる。
1.子(死亡している場合は孫、孫も死亡していればひ孫)
2.両親(死亡している場合は祖父母)
3.兄弟姉妹(死亡している場合は甥、姪)

上記のルールで相続人になる人については、どんなに疎遠であっても、遺産分割について合意を取りつける必要があります。
応じない相続人がいるからといって、その人を除いて遺産分割協議をしても無効となります。むりやり署名・押印をさせたり、協議書を偽造したりしても、もちろん無効です。
必ずしも全員が一堂に会する必要はなく、郵送等でやりとりをしても構いませんが、全員が合意していなければ遺産分割協議は有効に成立しません。

遺産分割協議に応じない理由


相続人の一部が遺産分割協議に応じないと、相続手続きが滞ってしまいます。
手続きを前に進めるには、まずは応じない理由を分析するべきです。理由はケースバイケースですが、主に考えられるものとしては以下が挙げられます。

ショックでふさぎ込んでいる

まず、故人が亡くなったショックでふさぎ込んでいるケースがあります。
特に長年一緒にいた配偶者や親が亡くなってしまった場合には、なかなか気持ちを切り替えられなくても無理はありません。時が過ぎてショックが和らぐのを待ったり、励まして気分を落ち着かせたりするのがよいでしょう。
とはいえ、相続税の申告など、期限が決まっている手続きもあります。大切な家族を失った悲しみが深い中で大変かと思いますが、少しずつでも進めるようにしてください。

元から不仲だった

非常に多いのが、相続人同士の関係が故人の生前から良くなかったケースです。
元から抱えていた感情的な対立は、しばしば相続の場に持ち込まれます。親がいるうちは何とか表に出ずにすんでいた不満が、亡くなったことをきっかけに表面化するケースもあります。故人に離婚経験があり「前妻の子」と「後妻や後妻の子」との間で協議ができない場合もあるでしょう。
このように元から仲が悪いと、冷静な話し合いをするのは困難です。
また、特に仲が悪いわけではなくても、普段交流がなく関係が疎遠であったために、スムーズに話し合いに進めないケースもあります。

不審な言動をする相続人がいる

特定の相続人が不審な言動をしているために、他の相続人と話し合いがつかない可能性も考えられます。
よくあるのが、同居していた相続人が、遺産の内容について納得のいく説明をしないケースです。他の相続人が「勝手に預金を使い込んでいたのではないか」「隠している遺産がありそう」などと不信感を抱き、まともな協議ができなくなります。
相続財産について明確な説明がないままだと、両者の主張は平行線のままになるでしょう。

遺言の内容に納得がいかない


故人が残した遺言が原因で、話し合いにならないケースもあります。
遺言書があれば、遺産分割協議をしなくても遺言の内容通りの相続が可能です。しかし、遺言書に一部の財産しか書かれていなかった場合や、割合の指定しかなかった場合などでは、遺言で決まっていない部分は協議しなければなりません。
遺言書の内容に納得がいかない相続人がいると「そんな遺言を書くはずがない」「むりやり書かせたから無効だ」といった主張がなされ、話し合いが滞ってしまいます。遺言書が無効であれば遺産分割協議が必要となりますが、そもそも有効性をめぐる争いは解決が難しいです。

遺言書が無効になるケースについて詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
遺言書が無効になるケースは?争い方や遺産分割の流れも解説
特別扱いを受けた相続人がいた
故人から特別扱いを受けた相続人がいると、他の相続人から反感を買って協議が進みづらくなります。
遺贈や生前贈与を受けた相続人がいたときには「特別受益」として遺産の取り分の調整を受ける可能性があります(民法903条)。特定の相続人だけが住宅資金を提供されていたケースが典型例です。
故人から受けた優遇が特別受益に該当するかが争いになり、遺産分割協議が進まない可能性も十分に想定されます。

特別受益について詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
特別受益が認められるケースは?計算方法や遺産分割の流れも解説

生前特別な貢献をしていた

故人の生前に特別な貢献をしていた相続人が、遺産の取り分の増額を主張して、協議に応じてくれないケースもあります。
故人の財産の維持や増加に「特別な寄与」をした相続人には「寄与分」が認められ、遺産の取り分が増える仕組みが用意されています(民法904条の2)。たとえば、献身的に介護をしたケースです。
「自分が特別な貢献をした」と考えている相続人の思いは強いため、寄与分をめぐる争いはたびたび生じます。

寄与分について詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
寄与分は介護をすれば必ずもらえる?要件や計算方法を弁護士が解説

相続財産の分け方が難しい

相続財産の分け方が難しいことも、遺産分割協議に応じない理由になり得ます。
分割が困難な例は、遺産の大部分が自宅の土地建物であるケースです。
売却して現金化すれば平等に分けられるものの、自宅への愛着が強くて進まない場合もあります。特定の相続人が引き継ぐ代わりに金銭を支払って調整しようとしても、手元に十分な資金がなければ難しいでしょう。法定相続分に応じて共有することも可能ですが、後の利用・処分に支障が出るおそれがあります。
いずれの方法をとるにしても問題があるため、話し合いが進みづらいケースといえます。

多額の借金が残された

遺産の中に多額の借金があるために、誰も話し合いをしたがらないケースも想定されます。
相続においては、マイナスの財産も対象です。相続人全員が借金を背負うのを嫌がって、遺産分割協議が進まない可能性があります。
借金が多い場合には、相続放棄が有力な選択肢です。相続放棄をすればプラス・マイナス問わずすべての財産を相続しないため(民法939条)、遺産分割協議をせずにすみます。

相続放棄について詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
借金を絶対に背負いたくない!相続放棄のポイントを弁護士が解説

遺産分割協議に応じない相続人を放置するリスク


遺産分割に応じない相続人がいるからといって、手続きせずに放置してはなりません。手続きを進めないと以下のリスクがあります。

相続放棄ができなくなる

相続放棄は、基本的に相続開始(死亡の事実)を知った時から3ヶ月以内にしなければなりません(民法915条1項本文)。期間を過ぎると単純承認したとみなされ、相続放棄ができなくなります(民法921条2号)。多額の借金があって相続したくないときには、早めに家庭裁判所で相続放棄の手続きをしましょう。
3ヶ月以内に決断するのが難しい場合には、期間を延ばすよう申告することも可能です(民法915条1項ただし書)。

所得税の準確定申告ができない

亡くなった方に確定申告の義務があった場合、相続人が「準確定申告」をしなければなりません。準確定申告の期限は「相続の開始(死亡の事実)を知った日の翌日から4ヶ月以内」です。
準確定申告を怠ると、無申告加算税、延滞税などのペナルティが課せられます。故人が生前に確定申告をしていたケースでは注意が必要です。

相続税の申告期限を過ぎる

相続税が発生するケースでは「相続の開始(死亡の事実)を知った日の翌日から10ヶ月以内」に申告しなければなりません。
相続税は、遺産の総額が基礎控除の「3000万円+法定相続人の数×600万円」を超えているときに課税される可能性があります。期限を過ぎると、無申告加算税、延滞税などのペナルティが課せられます。
10ヶ月という期間は、思いのほか早く過ぎてしまうものです。遺産分割協議が間に合わないときには、いったん法定相続分にしたがって申告してください。

遺産の隠ぺい・使い込みがなされる

遺産分割協議をしないで放置しているうちに、遺産の隠ぺいや使い込みがなされるリスクもあります。
特に故人と同居していた相続人の動きには、注意が必要です。本来してはならない預金の引き出しや、遺産隠しが進んでいる可能性があります。

遺産を活用・処分できない

遺産分割協議をしないままでいると、遺産を有効に活用したり、必要に応じて処分したりすることができません。
たとえば、不動産については、解体・売却などの重大な処分ができないままになってしまいます。空き家の倒壊などで周辺住民に損害を与えてしまうリスクもゼロではありません。プラスの恩恵を受けられないのみならず、マイナスの影響が出る可能性もあるのです。

特別受益・寄与分の主張ができなくなる

相続開始から10年を経過すると、特別受益や寄与分の主張ができなくなってしまいます。
従来は、特別受益や寄与分を主張する期間に制限はありませんでした。しかし、2023年4月1日より施行された改正法により、原則として相続開始から10年以内という制限が設けられました(民法904条の3)。
例外や経過措置はあるものの、特別受益や寄与分の主張を考えている人にとっては、遺産分割協議をしないことにリスクが生じます。

次世代に争いの種を残す

遺産分割協議をしないまま時間が経つと、相続人の中に亡くなる方が出て次の相続が発生する可能性があります。関係者が増えて問題が複雑化するケースも想定されます。
次世代に争いを先送りしても、関係が疎遠であるため問題解決は容易ではありません。争いは今の世代のうちに終わらせておくのが賢明といえるでしょう。

遺産分割協議に応じない相続人がいるときの対処法


では、遺産分割協議に応じない相続人がいる場合にはどう対処すればよいのでしょうか?

遺産分割調停を申立てる

相続人同士だけで協議が難しい場合には、家庭裁判所に遺産分割調停を申立てるのが一般的な方法です。調停では、第三者の調停委員が間に立って話し合いを進めるため、冷静になりやすいです。
相続人からの協議の呼びかけには応じなかった人でも、裁判所から連絡があれば調停の場に出てくるケースはあります。もし調停を欠席し続けた場合には審判に移行し、裁判所の判断がくだされます。
いずれにせよ、相続人だけでは話が進まないときには、遺産分割調停の申立ては有効な手段です。

弁護士に相談する

弁護士への相談も考えられます。弁護士へ依頼すれば以下のメリットを受けられます。

話し合いを任せられる

弁護士をつければ、相手方との話し合いが進む可能性があります。
問題がこじれているケースでは、相続人同士で直接話すよりも、弁護士を挟んだ方が冷静な話し合いが期待できるでしょう。一切協議に応じなかった相続人が、弁護士が入ったとたん交渉の場に出てくるケースもしばしばあります。
相手とやりとりするストレスからも逃れられるため、弁護士に話し合いを任せるメリットは大きいです。

法的根拠のある主張ができる

相続人だけでは、どうしても感情的になってしまいがちでしょう。弁護士がつけば、法的な根拠に基づいた説得力のある主張ができるため、状況を有利にすることが可能です。
特別受益や寄与分などの主張がある場合には、弁護士への相談が有効といえます。

裁判所での手続きに対応できる

調停や審判といった裁判所での争いになっても、弁護士がいれば安心して任せられます。
多くの方にとって、裁判所での手続きは大きな負担となるでしょう。プロである弁護士のサポートを受ければ、金銭的に有利な結論になる可能性があるだけでなく、精神的な負担も軽減できるメリットがあります。

遺産分割協議に応じない相続人がいるときは弁護士にご相談を


ここまで、遺産分割協議に応じない相続人がいるケースについて、理由、放置するリスク、対処法などについて解説してきました。
協議に応じない理由は様々ですが、放置すれば多くのリスクが生じます。どうしても話し合いが難しければ、裁判所での調停も検討しましょう。

遺産分割協議に応じない相続人にお困りの方は、弁護士までご相談ください。
「弁護士をつけると余計に話がややこしくなる」とお考えかもしれません、しかし、協議に応じていない以上、すでに信頼関係を構築するのは難しい状況といえます。また、すでに他の相続人が弁護士に相談している可能性も否めません。気がついたら自分だけが不利な状況に置かれているリスクもあるのです。
「遺産分割協議を前に進めたい」「もう他の相続人とやりとりしたくない」という方は、お気軽に弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。

この記事を書いた弁護士

野俣智裕
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

  • 野俣 智裕

  • ■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
    ■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
    ■東京弁護士会信託法部

  • 信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。

  • 東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。

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