信託行為とは、信託を設定するための行為です。契約、遺言、自己信託(信託宣言)の3種類があります。
通常は契約により信託を設定しますが、他の方法が適しているケースもあります。
この記事では、
などについて解説しています。
民事信託(家族信託)の利用を検討している方は、ぜひ最後までお読みください。
目次
信託行為とは、信託を設定するための法律行為です。法律行為とは意思表示に基づいて法律上の権利義務を発生させる行為であり、契約が典型例になります。
信託については契約のほかに遺言や自己信託(信託宣言)でも設定でき、これら3つが信託行為です(信託法2条2項)。
簡単にいえば、信託行為は「信託を設定するための方法」を意味します。
●信託契約(信託法3条1号)
●遺言による信託(信託法3条2号)
●自己信託(信託宣言)(信託法3条3号)
信託を設定するには、以上の3つの方法のいずれかを利用します。順に詳しく解説します。
大半のケースで、信託契約により信託を設定します。
信託契約は、委託者と受託者の合意に基づいて契約を締結すると効力が発生します(信託法4条1項)。
「委託者」は財産を他人に預ける人で、「受託者」は財産を預かって管理する人です。他に、財産から生じる利益を受ける「受益者」も登場します。民事信託では委託者が受益者も兼ねるのが一般的です。
信託契約は委託者と受託者の合意により成立し、契約書の作成は法律上求められていません。理論上は、口頭でも契約が成立します。もっとも、合意内容を明確にしてトラブルを防ぐために、契約書を作成するのが通常です。
信託契約には多様な活用例があります。たとえば、高齢の親を「委託者兼受益者」、子を「受託者」として不動産や金銭の管理を任せ、認知症に備えるケースが典型です。
他にも、会社の事業承継対策、障害児の「親亡き後」の生活保障など、様々な活用方法があります。
実務上は、ほとんどのケースで信託契約が利用されています。主な活用方法については、以下の記事を参照してください。
(参考記事)
・民事信託(家族信託)による認知症対策|メリットや注意点を解説
・民事信託(家族信託)で事業承継に備える方法|メリットや事例を解説
・民事信託(家族信託)で障害者の親亡き後の生活に備える方法
遺言による信託の設定も可能です。「遺言信託」あるいは「遺言による信託」と呼ばれます。
遺言による信託には、民法の遺言に関する規定が適用されます。方法としては、民法で定められている自筆証書遺言、公正証書遺言などがあります(民法967条以下)。
また、遺言は死亡によって効力が生じるため(民法985条1項)、遺言による信託の効力が発生するのも遺言者の死亡時です(信託法4条2項)。
したがって、生前に権利を移転させる必要がなく、親族に知られずに利用できる点が特徴になります。作成後に気が変わったときには撤回も可能です(民法1022条)。
ただし、死後に効力が発生するため、自分が生きている間の認知症対策ができない点には注意してください。
なお、遺言により設定する信託は、信託銀行の「遺言信託」という名称のサービスとは別物です。「遺言信託」サービスは、遺言書の作成アドバイス、保管、遺言執行などをセットにして提供するサービスであり、法律上の信託ではありません。
遺言による信託(遺言信託)の特徴や活用例について詳しくは、以下の記事を参照してください。
参考記事:遺言による信託(遺言信託)とは?メリット、注意点や活用例を解説
自己信託という設定方法もあります。信託宣言とも呼ばれます。
自己信託は、委託者自身が受託者も兼ねる信託です。自分の財産の一部を、信託財産として別扱いにします。
受託者に適任の人が見つからないケースでもひとりで信託の設定が可能で、自分で財産を管理できる点がメリットです。破産しても信託財産は守られます。
利用例としては、病気の家族のために財産を確保しておくケースがあります。
財産隠しや執行逃れに利用されるのを防ぐために、自己信託は法律上定められた要件を満たさないと効力が生じません(信託法4条3項)。通常は公正証書を作成して、法令で定められている事項を記載します。
自己信託(信託宣言)の特徴や活用例について詳しくは、以下の記事を参照してください。
参考記事:自己信託(信託宣言)とは?メリットや活用例を弁護士が解説
信託をどの方法で設定するかは、以下の観点から判断してください。
特別な理由がなければ、契約により信託を設定しましょう。
信託契約を活用すれば、様々なニーズに応えられます。実際に、ほとんどの民事信託で契約が利用されています。
基本的には信託契約を締結しますが、特別な理由があるケースでは遺言や自己信託の利用を検討しましょう。
遺言による信託設定を検討するケースとしては、たとえば以下が考えられます。
自己信託を検討する例は、以下の通りです。
以上にあてはまる場合でも、契約で対応すべきケースもあります。専門家に相談し、どの信託行為がよいかを確認するようにしてください。
より詳しく知りたい方は、以下の記事を参照してください。
参考記事:民事信託(家族信託)の流れ|手続き方法や費用を弁護士が解説
認知症への備え、事業承継など、信託を検討する理由は様々です。信託を考えている場合には、まずは専門家に相談しましょう。
希望する方向性を伝えれば、専門家が信託で実現できそうかを判断してくれます。信託行為は通常は契約ですが、他の選択肢が考えられるケースもあるでしょう。信託で実現可能であり説明に納得がいった場合には、専門家に依頼して進めてください。
たしかに、出回っているひな形を活用するなどして、専門家に依頼せずに自力で信託を設定することも可能です。しかし、書面の内容が法的に不正確になる、信託口口座の開設ができないといった問題が生じるリスクがあります。確実に希望を実現するには、専門家の力を借りるようにしましょう。
民事信託は仕組みが複雑で制度の歴史が浅いため、専門家であっても対応できない場合があります。取り扱い実績が豊富で、信託に精通した専門家を探して相談・依頼するようにしましょう。
依頼を受けた専門家は、ドラフトを作成し、金融機関や公証役場との調整を進めます。
民事信託では、金融機関に信託専用の「信託口口座」を開設するケースが多いです。金融機関によって求められる条項が異なるため、事前の調整が不可欠となります。
また、金融機関から公正証書化を要求される場合も多いです。公正証書作成後に金融機関に変更を要求されると二度手間になるため、金融機関の了承を得てから公証役場と調整を行い、内容や作成日を固めます。
関係機関との調整も専門家が行うので安心してください。
内容が決まったら、公証役場で公正証書にします。公正証書は、法律の専門家である公証人が作成し、信用性が高い公文書です。
契約や遺言により信託を設定する場合には、法律上は公正証書にする義務はありません。もっとも、公正証書にしていないとトラブルが発生するリスクが高まる、信託口口座を作成できないといった問題があります。どの信託行為であっても、公正証書にするのが一般的です。
なお、公正証書を作成する際に手数料がかかる点には注意してください。
民事信託を公正証書ですべきことについては、以下で詳しく解説しています。
参考記事:民事信託(家族信託)は公正証書ですべき!メリットや流れを解説
ここまで、信託行為に関して、意味や種類などについて解説してきました。
信託行為とは、信託を設定するための行為です。契約、遺言、自己信託の3種類があります。大半のケースで信託契約が利用されます。
民事信託の利用を検討している方は、弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。
当事務所は民事信託に力を入れており、豊富な経験を有しています。現在の状況やご希望をお聞きしたうえで、実現できる方法をオーダーメイドでご提案可能です。通常は契約を利用しますが、遺言や自己信託の方が適しているケースがあればご案内いたします。
「希望通りの財産管理・承継を実現したい」「どの信託行為を選べばいいかわからない」といった方は、お気軽に弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。
弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士
野俣 智裕
■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
■東京弁護士会信託法部
信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。
東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。