株式を信託財産にできる?上場株式を信託する際には注意が必要!

信託

「株式を民事信託(家族信託)の対象にしたい」とお考えでしょうか?
法律上は、株式を信託財産にできます。非上場株式(自社株)の信託は、円滑な事業承継を実現するために有効な手段です。
もっとも、上場株式を信託財産にしたい場合には注意してください。対応している証券会社が限られているうえ、信託できるとしても様々な制約が存在します。信託により希望を実現できるかどうかを、慎重に見極めなければなりません。
この記事では、
●株式を信託する際の注意点
●株式を信託するまでの流れ
●株式を信託できないときの対処法
などについて解説しています。
株式を家族に信託したいとお考えの方にとって参考になる内容となっていますので、ぜひ最後までお読みください。

本記事は、主に上場株式の民事信託を検討している方向けになります。非上場企業の経営者様で、自社株を信託して事業承継に備えたい方は、以下の記事も参考にしてください。
参考記事:民事信託(家族信託)で事業承継に備える方法|メリットや事例を解説

株式の管理・承継で生じる問題


ご高齢の方は、財産の管理・引き継ぎに関して様々な不安をお持ちでしょう。株式の管理・承継に関しては、対策をしないと以下の問題が生じます。

認知症になると売買できない

認知症になると、株式の売買ができなくなります。認知症により法的判断能力がない状態では、取引をする能力がないとみなされるためです。
証券会社が認知症の事実を把握すると証券口座は凍結され、以後上場株式の取引はできません。生活費や介護施設の入居費用のために株式を売却して現金化したくても、塩漬け状態にせざるを得なくなってしまいます。受領した配当も引き出せません。
自社株の場合には、認知症により議決権の行使ができなくなり、会社の重要事項の決定が滞るリスクが高いです。生きている間は、後継者への株式の譲渡もできません。
認知症になり株式を動かせなくなると、周囲に多大な影響が生じてしまいます。

認知症になると、銀行の預貯金口座も凍結されます。詳しくは以下の記事をご覧ください。
参考記事:認知症になると口座凍結される!民事信託や任意後見による対策を解説

成年後見人をつけても運用はできない

認知症により法的判断能力を失った後で資産を動かすには、成年後見制度(法定後見)の利用が必要です。裁判所に申立てをすれば、親族や専門家が成年後見人等に就任します。成年後見人がつけば、資産を動かせるようになります。
もっとも、成年後見人は自由に財産を利用・処分できるわけではありません。成年後見は本人保護のための制度であり、裁判所の監督のもと、財産を守るために活動します。資産の活用にも制限があり、リスクがある株式の売買は自由にできません。
成年後見人には法律の専門家が就くケースも多く、毎月の報酬が発生します。いったん就任すると基本的に亡くなるまで継続するなど、使い勝手に難がある制度です。成年後見は、株式の活用とは相性が悪いといえます。

相続でトラブルになる可能性も

財産の中に株式があると、亡くなった際の相続においてトラブルになるおそれがあります。
とりわけ、自社株を保有する経営者の相続においては、後継者問題も絡んでトラブルが生じるリスクが高いです。事前に対策をしていないと、遺産分割協議がまとまらずに泥沼化するケースも少なくありません。争っている最中は、事業も停滞してしまうでしょう。
認知症になったときだけでなく、亡くなった際にも、株式の引き継ぎをめぐって問題が生じる可能性があります。

株式を民事信託(家族信託)の対象にするメリット


以上の問題を解決する方法として、民事信託(家族信託)があります。民事信託の基礎知識については、以下の記事をご覧ください。
参考記事:民事信託とは?活用方法やメリット・デメリットを弁護士が解説

あらかじめ株式を信頼できる家族に信託しておけば、次のメリットを享受できます。

認知症になっても受託者が換価できる

株式を民事信託の対象にすると、受託者の管理下におかれるため、委託者本人が認知症になっても凍結されずにすみます。
上場株式の場合には、売却して現金化でき、配当も受け取れます。事前の定めに応じて、得た金銭を生活費や介護費などに充てることが可能です。
自社株についても、あらかじめ信託しておけば後継者が議決権を行使でき、経営に空白期間を生じさせずにすみます。
民事信託を利用すれば、認知症による問題を解消できるのです。

民事信託による認知症対策については、以下の記事を参考にしてください。
参考記事:民事信託(家族信託)による認知症対策|メリットや注意点を解説

財産承継も定められる

民事信託では、財産の引き継ぎについても定められます。
遺言の代わりになるため、後継者争いなどのトラブルを回避できます。委託者の死亡時だけでなく、「自社株は自分の死後長男に、長男の死後は次男に」など、先々の承継まで定めておける点も大きなメリットです。

以下の記事では、二次相続に信託を活用する方法について詳しく解説しています。
参考記事:二次相続に民事信託(家族信託)で備える方法を弁護士が解説

株式を信託財産にできる?


株式が民事信託の対象になれば、大きなメリットがあります。では、そもそも株式は信託財産にできるのでしょうか?

非上場株式(自社株)を信託すれば事業承継対策ができる

非上場株式(自社株)については、信託財産にできます。自社株を信託すれば、効果的な事業承継対策が可能です。

経営者が自社株を信託して事業承継に備える方法については、以下の記事を参考にしてください。
参考記事:民事信託(家族信託)で事業承継に備える方法|メリットや事例を解説

上場株式は信託できない場合がある

注意が必要なのが上場株式です。
法律上は、上場株式の信託が不可能なわけではありません。もっとも実務上、民事信託に対応していない証券会社も多いのが実情です。対応している証券会社であっても、条件による制約があります。
上場株式の信託は思うようにいかない場合があり、信託の対象にするかは慎重に検討しなければなりません。

株式を信託する際の注意点


上場株式を民事信託の対象にしたいときは、具体的に以下の点に注意してください。

対応している証券会社が限られる

上場株式を信託財産にする際の大きな問題は、対応できるのが一部の証券会社に限られる点です。
株式を信託するときは、名義が受託者に移ります。受託者自身の財産と信託財産を明確に分けるために、証券口座について信託専用の「信託口口座」を利用するべきです。もっとも、信託口口座を開設できる証券会社は限られています。
対応している証券会社が次第に増えてきてはいるものの、開設できるかを事前に確認しておかなければなりません。

証券会社によっては扱えない商品・取引がある

対応している証券会社が見つかったとしても、信託する前と同じように資産を運用できるわけではありません。
民事信託のために証券会社を変える場合、保有していた商品を扱っていない可能性があります。特に外国株式や投資信託については、証券会社によっては扱っていない銘柄があるかもしれません。
加えて、株式の売却はできても買い付けはできない条件になっているなど、取引にも制約があります。従前どおり自由に運用ができるわけではないので、注意してください。

保有期間がリセットされる

株式を信託すると、継続保有期間がリセットされてしまいます。株式の名義が、委託者から受託者に変更されるためです。
株主優待の有無や内容が保有期間に応じて変わる場合には、期間のリセットにより、以前と同様の優待を受け取れなくなってしまいます。

特定口座・NISA口座を利用できない

信託口口座を開設する際には、通常は一般口座になってしまい、特定口座やNISA口座は利用できません。
従来は源泉徴収ありの特定口座を利用していて株式に関する確定申告が不要になっていたとしても、一般口座への移行により手間が増えます。NISA口座で利益に対する税金が非課税になっていたケースでも、一般口座になればメリットを享受できません。
一般口座に移行し、税金の計算や支払いが生じてしまう点は、株式を信託するデメリットのひとつです。

二次相続の指定はできない

上場株式を信託する際には、一般的に委託者の死亡により終了することが条件とされている場合が多いです。したがって、二次相続の指定まではできません。
「株式を引き継いだ人が亡くなった際の行方まで指定したい」とお考えの方は、注意してください。

受託者が限定される


受託者を誰にするかは、民事信託を設定する際に問題になりやすいです。
大前提として、管理を任せるにあたって信頼できる人でなければなりません。株式に関する知識も欠かせないでしょう。
加えて上場株式を信託する際には、信託口口座を開設する条件として、受託者について制限がついている場合が多いです。
たとえば、以下の条件があります。
●受託者になれるのは限られた親族のみ(2親等以内など)
●受託者は1人のみ、複数は認めない
●法人は受託者になれない
条件があるため、場合によっては受託者を希望通りにできない可能性があります。親が「委託者兼受益者」、子のひとりが「受託者」となる典型的なケースでは、大きな問題はないでしょう。

遺留分に配慮する必要がある

信託を利用して株式を承継する場合には、遺留分に配慮しなければなりません。遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に、最低限保障される遺産の取り分です。
死後に受託者に株式を引き継がせるようにしていたとしても、遺産に占める割合が大きすぎると、他の相続人から遺留分侵害額請求をされるリスクがあります。特定の人に財産を渡し過ぎないように注意してください。

遺留分について詳しくは、以下の記事を参考にしてください。
参考記事:遺留分の計算方法|具体例や請求方法もわかりやすく解説

株式を信託するまでの流れ


上場株式を信託するまでの流れは、以下の通りです。

証券会社に口座開設できるかを確認する

まずは、証券会社に信託のための口座を開設できるかを確認しましょう。
上述の通り、対応できる証券会社は限られます。現在利用している証券会社が対応していない可能性も否めません。
また、開設できるとしても様々な条件が課されます。希望に沿った内容の信託にできるかどうかを、事前に把握しておかなければなりません。

信託契約書を作成する

信託に際しては、契約書を作成します。契約書の内容については、あらかじめ証券会社のチェックを受けなければなりません。
間違いのない契約書を作成し、証券会社との調整をするためには、弁護士など専門家の関与が不可欠です。信託に精通した弁護士に相談して、内容に問題のない契約書を作成してもらうようにしましょう。

契約書を公正証書にする

信託口口座を開設する際には、一般的に契約書を公正証書にしなければなりません。
公証人のチェックを経て作成された公正証書の信用性は高いです。トラブル防止のために、金融機関は公正証書化を要求します。
公正証書化するために、事前に調整した日に公証役場に出向きます。作成には所定の手数料が必要です。

民事信託を公正証書でする点について詳しくは、以下の記事を参考にしてください。
参考記事:民事信託(家族信託)は公正証書ですべき!メリットや流れを解説

信託口口座を開設する

契約書を公正証書にできたら、証券会社で信託口口座を作成します。契約書や要求された書類を用意して手続きをしましょう。
口座を開設したら、株式を移し、信託業務を開始します。

株式を信託できないときの対処法


対応できる証券会社が見つからない、希望に沿った内容ではないなど、株式を信託できない場合にはどうすればいいのでしょうか?

代理人として取引する

株式の取引は、原則として名義人本人が行います。もっとも、高齢で管理を子に任せたい場合などは、代理人として取引できる場合があります。証券会社に問い合わせ、所定の手続きを踏んでください。
もっとも、代理人が取引できるのは、本人に判断能力がある場合に限られます。認知症になってしまうと、代理人による株式取引はできません。また、代理人による株式取引について親族間でトラブルが生じるおそれもあります。
デメリットがあるため、代理人をつけるのが有効でないケースも多いです。

現金化して信託する

株式のままで信託するのが難しければ、売却により現金化して信託する方法もあります。もちろん金銭は信託財産にできますので、法律上大きな障害はありません。
もっとも、値上がり益や配当を得たいなど、株式のまま保有していたい場合には使えない方法です。

任意後見を利用する

民事信託ではなく、任意後見の利用も考えられます。
任意後見は、認知症などで本人の判断能力が低下する前に、後見人になる予定の人と契約を結んでおく制度です。実際に本人の判断能力が低下したら、事前に委任されていた業務を後見人が本人に代わって行います。
もっとも、任意後見では後見監督人の関与があり、自由に株式を活用できるわけではありません。

遺言書を残す

民事信託の機能のうち、財産承継については、遺言書を利用すれば解決できます。死後の株式の分け方に希望がある場合には、遺言書の作成により叶えられます。
もっとも、すでに認知症で法的判断能力がなくなっていると、遺言はできません。意味を理解できない状態で書いた遺言は無効です。

認知症で作成した遺言書の有効性について詳しくは、以下の記事を参考にしてください。
参考記事:認知症で遺言を作ると無効?有効に作成するポイントを弁護士が解説

株式を民事信託(家族信託)の対象にしたい方は弁護士にご相談を


ここまで、株式を信託できるか、信託する際の注意点、信託できないときの対処法などについて解説してきました。
自社株については、事業承継のために信託の活用が有効です。上場株式も信託は可能ですが、事実上制約が多く、希望を実現できないケースが少なくありません。信託以外の方法も含め、ベストなやり方を検討する必要があります。

株式を民事信託の対象にできるかお悩みの方は、弁護士法人ダーウィン法律事務所までご相談ください。
民事信託は制度の歴史が浅く仕組みが複雑であるため、対応できる専門家が不足しています。弁護士であっても対応できるとは限りません。
当事務所は民事信託に力を入れており、豊富な経験を有しています。現在の状況や希望をお聞きしたうえで、他の手段も含めて、可能な方法をオーダーメイドでご提案いたします。
「株式を信託したい」とお考えの方は、お気軽に弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。

この記事を書いた弁護士

野俣智裕
  • 弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士

  • 野俣 智裕

  • ■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
    ■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
    ■東京弁護士会信託法部

  • 信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。

  • 東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。

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