「民事信託(家族信託)を利用したい」とお考えでしょうか?
民事信託を用いれば、希望通りの財産管理・承継を実現しやすくなります。手続きの流れを理解して、上手に活用しましょう。
この記事では、
●民事信託の仕組みや設定方法
●民事信託の流れ
●民事信託にかかる費用
などについて解説しています。
民事信託の利用を検討されている方にとって参考になる内容ですので、ぜひ最後までお読みください。
目次
まずは、仕組みや設定方法といった、民事信託に関する基礎知識を解説します。
民事信託は、財産を引き継ぐために、信頼できる人に財産の管理・処分を任せる仕組みです。家族に任せるケースが多いため「家族信託」とも呼ばれます。
民事信託においては、次の3つの当事者が登場します。
●委託者:財産を他人に預ける人
●受託者:財産を預かって管理する人
●受益者:財産から生じる利益を受ける人
「委託者」の財産を「受託者」が引き受け、「受益者」のために財産を管理・処分する仕組みです。設定時に贈与税が課税されるのを防ぐために、当初は「委託者=受益者」となっている場合が多いです(自益信託)。
活用例としては、認知症対策として、高齢の親が「委託者兼受益者」、子が「受託者」になって、子が親のために財産管理を行う事例が挙げられます。
委託者が死亡したときの権利者も定められるため、遺言の代わりに財産の引き継ぎにも利用できます。遺言とは異なり、数世代先の財産承継についての定めも可能です。
民事信託を利用すれば、生前の財産管理や死後の財産承継について柔軟に定められるため、近年注目を集めています。
民事信託の基本について詳しくは、以下の記事を参考にしてください。
民事信託とは?活用方法やメリット・デメリットを弁護士が解説
民事信託を設定する方法としては、以下の3つがあります(信託法3条各号)。
●信託契約
●遺言
●信託宣言(自己信託)
一般的なのは、信託契約を結ぶ方法です。以下では、契約で設定することを前提に解説します。
民事信託の手続きは、以下の流れで進めます。
まずは、信託契約の内容を決めます。すべてを自分たちだけで決めるのが難しいときには、専門家と相談しつつ決定しましょう。
信託の目的、すなわち「何のために信託をするのか」は非常に重要です。目的によって信託の方向性が大きく変わります。
信託の目的は様々考えられますが、典型的なものとしては以下が挙げられます。
●高齢者の認知症への備え
●会社経営者の事業承継対策
●障害を抱えた子の「親亡き後」の生活保障
これらに関して詳しくは、以下の記事を参考にしてください。
民事信託(家族信託)による認知症対策|メリットや注意点を解説
民事信託(家族信託)で事業承継に備える方法|メリットや事例を解説
民事信託(家族信託)で障害者の親亡き後の生活に備える方法
他にも、二次相続対策、不動産の共有対策など、民事信託には様々な活用方法があります。ご自身の希望を実現できるかわからない方は、まずは専門家にご相談ください。
誰を当事者として信託を設定するのかを決める必要があります。必ず置かなければならないのは、委託者、受託者、受益者の三者です。
誰の財産を管理・承継したいかは決まっているでしょうから、委託者は明らかです。
民事信託では設定時の贈与税の課税を避けるために、委託者が当初の受益者も兼ねるのが一般的になります。財産の引き継ぎを考えて、受益者が死亡した後の「第2受益者、第3受益者…」も決めておけます。
問題になりやすいのは受託者です。受託者は財産を管理するため、信頼のおける人でなければなりません。子が就任する場合が多いですが、適任でなかったり、そもそも子がいなかったりすれば、他の親族になります。受託者に不測の事態が生じる場合に備えて、「第2受託者」を決めておく、家族で一般社団法人を設立して受託者とするといった方法も考えられます。
弁護士などの専門家は、受託者にはなれません。もっとも「信託監督人」や「受益者代理人」に就任できます。「信託監督人」や「受益者代理人」は必須ではありませんが、受託者の業務を監視したいときには有効です。
何を信託の対象財産にするかも決めなければなりません。目的に応じて、信託財産はケースバイケースです。
信託財産にできるものとしては、不動産、現金、株式などが挙げられます。マイナスの財産、農地などは信託の対象にできません。
信託できる財産・できない財産について詳しくは、以下の記事を参考にしてください。
信託できる財産・できない財産|できないときの対処法も解説
民事信託は、信託の目的を達成したときなどに終了します(信託法163条1号)。他にも信託契約で定めた条件を満たしたときに終了し(信託法163条9号)、期間の設定も可能です。
受益者が死亡した後でも、次の受益者を指定して信託を存続させることができます。もっとも、信託開始から30年を経過した後は、受益権の承継は1度しか認められません(信託法91条)。「30年経過時において受益者だった人」が亡くなったときには受益権が引き継がれますが、それで最後です。永遠に存続させられるわけではないので注意してください。
信託終了時に残った財産について、誰に帰属させるかを決められます。法定相続人はもちろん、他の親族や親族以外の第三者に与えることも可能です。もっとも、相続人の遺留分には配慮しなければなりません。
民事信託は遺言と同様の機能を有し、残余財産を誰に帰属させるかは重要なポイントです。
おおまかに方向性が決まったら、弁護士などの専門家に相談します。
民事信託は仕組みが複雑で手続きが面倒であるため、自力で進めるのは困難です。ひな形を見て何となく契約書を作成するのはオススメできません。専門家の力を借りるようにしてください。
ただし、制度が比較的新しいため、専門家であっても民事信託に詳しいとは限りません。数多く取り扱った実績があり、民事信託に精通した専門家を選ぶようにしてください。
もちろん、相談までにすべてを決めておく必要はありません。細かい部分が決まらない、そもそも民事信託で希望を実現できるかわからないといった場合でも、お気軽にご相談ください。望みを叶えるために最適な方法を、遺言や任意後見も含めて検討いたします。
専門家に相談して、スキームや費用に納得ができれば、委任契約を結びます。
委任された専門家は、契約書案の作成を進めます。契約書の内容は、状況や希望に応じてケースバイケースです。専門家であっても、十分な知識・経験がないと適切な契約書を作成できません。作成後に問題が生じないように、民事信託に精通した弁護士に依頼するのが重要です。
契約書案ができたら、金融機関と調整を行います。
民事信託では、信託専用の「信託口口座」を金融機関で開設する場合が多いです。金融機関によって求められる条項が異なるケースがあるため、事前の調整が不可欠となります。
信託口口座の開設には契約書の公正証書化が要求される場合が多く、信託契約は公証役場で公正証書にするのが通常です。公証人の関与を経て作成された公正証書は、信用性の高い文書とされています。
公正証書を作成した後で金融機関に変更を要求されると二度手間になってしまうため、金融機関の了承を得てから公証役場と調整を行い、内容や作成日を固めます。
決まった日に公証役場に出向き、信託契約書を公正証書で作成します。内容を確認して、間違いがなければ完成した公正証書を受け取ります。ここで契約が完了です。
後述する通り、公正証書の作成には所定の手数料がかかります。
民事信託における公正証書の意義について詳しくは、以下の記事を参考にしてください。
民事信託(家族信託)は公正証書ですべき!メリットや流れを解説
民事信託では、信託財産の所有権は、形式的に委託者から受託者へと移ります。契約できたら、財産の名義を受託者に移さなければなりません。
不動産であれば、所有権移転登記と信託登記を行います。預金については、いったん引き出したうえで、金融機関で信託専用の「信託口口座」を開設して入金します。
契約して財産の名義を変えただけで終わりではありません。ここから受託者は財産の管理を開始します。
契約内容によって、生活費を出金する、不動産を修繕するといった仕事があります。事務処理状況の報告や、帳簿の作成等も行わなければなりません(信託法36条、37条)。
成年後見と異なり家庭裁判所に報告する義務はないものの、受託者の負担は大きいです。必要に応じて、専門家によるサポートサービスをご利用ください。
民事信託には、以下の費用がかかります。
公正証書の作成には、以下の手数料がかかります。金額は、目的となる財産の価額によって変わります(公証人手数料令9条別表)。
目的の価額 | 手数料 |
---|---|
100万円以下 | 5,000円 |
100万円を超え200万円以下 | 7,000円 |
200万円を超え500万円以下 | 11,000円 |
500万円を超え1,000万円以下 | 17,000円 |
1,000万円を超え3,000万円以下 | 23,000円 |
3,000万円を超え5,000万円以下 | 29,000円 |
5,000万円を超え1億円以下 | 43,000円 |
1億円を超え3億円以下 | 43,000円+超過額5,000万円ごとに13,000円 |
3億円を超え10億円以下 | 95,000円+超過額5,000万円ごとに11,000円 |
10億円を超える | 249,000円+超過額5,000万円ごとに8,000円 |
信託に伴う不動産の登記には、登録免許税が課税されます。
金額は以下の通りです。
●土地:固定資産税評価額の0.3%(現在は特例により軽減中、本来は0.4%)
●建物:固定資産税評価額の0.4%
たとえば、固定資産税評価額が1000万円の建物であれば、登録免許税は4万円となります。
なお、「委託者=受益者」の自益信託であれば、設定時に贈与税は課税されません。
民事信託は、専門家へ依頼しないと難しいため、弁護士などへの報酬が発生します。
報酬金額は依頼先によりますが、当事務所の報酬は以下をご確認ください。
信託、相続に関する弁護士費用一覧
費用はかかりますが、民事信託については弁護士などの専門家に相談・依頼すべきです。
専門家に依頼すれば、希望する形で財産管理・承継が可能になります。
民事信託は仕組みが複雑であり、一般の方が理解するのは容易ではありません。契約書の作成には、専門的な知識・経験が不可欠です。ひな形を転用するだけでは、個々の事情に沿った契約書にならないリスクがあります。
民事信託に精通した弁護士に依頼すれば、状況や希望に応じて契約内容のアレンジが可能です。民事信託で難しい場合には、遺言や任意後見も活用した方法をご提案し、希望に沿った財産管理・承継を実現できます。
民事信託の手続きは面倒です。専門家に依頼すれば、手続きを任せられます。
契約書の作成はもちろん、金融機関や公証役場との調整も弁護士が代わりに行います。名義変更の手続きもサポートいたします。
細かい手続きにストレスを感じないためには、専門家にお任せください。
民事信託では、トラブルが発生する可能性もあります。たとえば「遺留分侵害額請求をされた」「受託者が職権を濫用している」といった問題です。
弁護士はトラブル予防の視点も持っているため、遺留分に配慮した内容としたり、信託監督人として受託者を監視したりできます。
せっかく早くから民事信託で備えようとしたのに、トラブルが生じてしまうともったいないです。トラブル予防のためには、起こり得るトラブルを予期できる弁護士にご依頼ください。
ここまで、民事信託の流れを中心に、費用などについても解説してきました。
民事信託は決めるべき内容や必要な手続きが多く、自力で進めるのは困難です。専門家の力を借りて、望み通りの財産管理・承継を実現できるようにしましょう。
民事信託の利用を考えている方は、弁護士法人ダーウィン法律事務所までご相談ください。
当事務所は民事信託に力を入れており、豊富な経験を有しています。現在の状況やご希望をお聞きしたうえで、実現できる方法をオーダーメイドでご提案いたします。民事信託だけでなく、遺言や任意後見の併用も可能です。
「民事信託を活用したいが、どうすればいいかわからない」とお悩みの方は、お気軽に弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。
弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士
野俣 智裕
■東京弁護士会 ■日弁連信託センター
■東京弁護士会業務改革委員会信託PT
■東京弁護士会信託法部
信託契約書の作成、遺産分割請求事件等の相続関連事件を数多く取り扱うとともに、顧問弁護士として複数の金融機関に持ち込まれる契約書等のチェック業務にも従事しております。
東京弁護士会や東京税理士会等で専門士業向けに信託に関する講演の講師を務めた経験も有し、信託や相続に関する事件に深く精通しております。